メルシュ博士のマッドな情熱

京衛武百十

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タリアP55SIの葛藤

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アンナやサーシャは、CLSに感染しても発症しないというだけで確かにまぎれもなく<人間>だった。しかし、CLS患者の頭の中身を取り換えてメイトギアとリンクしてその体を操っているだけの<メイトギア人間>は、果たして人間と言えるのか?

現在の、総合政府の統治下にある社会においては、その答えは<否>である。法律上、メイトギア人間は人間として見做されないだろう。それどころか、ただの死体損壊であり、死者の尊厳を踏みにじったとしてメルシュ博士が罪に問われることは間違いない。

だが同時に、現在のリヴィアターネに法律は存在しない。何しろ総合政府自らが、CLS患者を<害獣>と規定してメイトギアを始めとしたロボット達に処置させていたりするのだから。一時的にとは言え、病で亡くなった人間を害獣扱いするなど、社会的に認められることもない。リヴィアターネには現在の法は及ばないという強引な解釈の下で成立しているものであった。つまり、総合政府そのものが<リヴィアターネは法の支配を受けていない>と規定しているのである。

となれば、もう、メルシュ博士が何をしようがそれを止めることは誰にもできないのだ。

法律の知識もインストールされているメイトギアであるタリアP55SIにはそれが明確な事実として認識できてしまう。その為、おかしいのではないかと思っていてもそれを口に出すことができなかった。人間であるサーシャの為にしていることだと言われてしまった上に、サーシャが受け入れてしまっていては。

サーシャがメイトギア人間を拒まないのは当然だった。何しろ拒まなければいけない理由が無いのだから。これまで彼女の周りにいたのはメイトギアとCLS患者だけだった。その彼女の前に、体だけの歪な存在とは言え、こうして話ができる生身の<人間のようにも見えるもの>が存在しているのだ。それがサーシャにとってどれほど嬉しいことか。

自分の周りの存在する者は全て自分とは大きくかけ離れた異質なものという事実に彼女が気付いてしまってから、彼女がどれだけ心を痛めていたか。まだ幼かったから単純に何となく寂しいと感じている程度で済んでいたものの、成長と共に自分が置かれている環境を客観的に見られるようになれば精神を病んでしまう可能性だってあっただろう。今の環境しか知らなかったことで問題が大きくならずに済んできたもののそれがこれからもそうである保証もない。

タリアP55SIはそう考えてしまったが故に、納得できないものも感じつつも、この計画に乗るしかないと思ったのであった。
 
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