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メルシュ博士のパラダイス
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メルシュ博士は、動かなくなった二人のCLS患者を、それこそ徹底的に見る影もなく解剖、いや<解体>し、いくつものサンプルを取りそれを保管した。
既に人間の面影すら失われた二人の遺体は、博士の指示を受けたリリアテレサが、一応、人間のようにも見える形に整えて、作業用のレイバーギアに付近の住宅を解体して確保した資材で作らせた棺に納め、研究棟の裏を臨時の墓地としてそこに埋葬する。
博士にしてみればそれで人間としての供養は十分と思っていたらしいが、これが世間の知るところとなればまた批判が殺到、死体損壊や死者の尊厳を踏みにじった等の罪状で裁かれることになるだろう。だが見ての通り、ここにはそれをする人間はもういない。彼女を裁く者も罰する者も存在しない。加えて彼女はもう、ここから人間の社会に戻ることもできない。
なぜならここは人類史上最大のタブーである禁断の死の惑星。そこから出ようとする者は警告ひとつされることなく抹殺される。社会的には彼女は絶対封鎖区域に立ち入った瞬間に、CLS患者と同じく死んだものと見做されているのだった。
まあ実際、人間だった彼女の方は既にCLSに感染して死亡しているのだが。
機械に自分の意識や記憶を移すことは、現時点ではまだ法的に認められていない。そのようにして移された意識や記憶は<人間>とは見做されない。だから彼女はもう現在の法律上は死んだことになる。彼女がどれほど人間らしく振舞おうが、ロボットの体の彼女はロボットと同じ扱いになるということだ。
もっとも、当のメルシュ博士はそんなことは百も承知の上だし、何一つ気にもしてなかった。彼女にとってはそんなことはどうでも良かったのだ。彼女の頭にあるのは自分が興味を抱いたものに対する好奇心・探究心だけで、自分が人間かどうかすら些細なことでしかなかったのである。
「いやはや。ここは本当に素晴らしいな。何をやろうと、煩く言ってくる奴らもいない。私にとってはまさしくパラダイスだよ」
メルシュ博士は嬉しそうにそう声を上げた。しかしその姿はどこか狂気をはらんだものにも見えた。いや、実際に人としての倫理観すら持ち合わせていないのだからおそらく狂っているのだろうが。
それでも彼女の情熱は本物だった。そして彼女はさらなる興味を抱いていた。
「せっかく若い男のCLS患者が手に入ったのだ。次はCLS患者同士で生殖が行えるのかどうか確認しよう」
「博士、それってまさか…?」
「もちろん子作りのことだよリリアテレサくん。決まっているじゃないか!」
冷めた視線を向けるリリアテレサに振り返ったメルシュ博士の目は、楽しいことを見つけた子供のようにきらきらしていたのだった。
既に人間の面影すら失われた二人の遺体は、博士の指示を受けたリリアテレサが、一応、人間のようにも見える形に整えて、作業用のレイバーギアに付近の住宅を解体して確保した資材で作らせた棺に納め、研究棟の裏を臨時の墓地としてそこに埋葬する。
博士にしてみればそれで人間としての供養は十分と思っていたらしいが、これが世間の知るところとなればまた批判が殺到、死体損壊や死者の尊厳を踏みにじった等の罪状で裁かれることになるだろう。だが見ての通り、ここにはそれをする人間はもういない。彼女を裁く者も罰する者も存在しない。加えて彼女はもう、ここから人間の社会に戻ることもできない。
なぜならここは人類史上最大のタブーである禁断の死の惑星。そこから出ようとする者は警告ひとつされることなく抹殺される。社会的には彼女は絶対封鎖区域に立ち入った瞬間に、CLS患者と同じく死んだものと見做されているのだった。
まあ実際、人間だった彼女の方は既にCLSに感染して死亡しているのだが。
機械に自分の意識や記憶を移すことは、現時点ではまだ法的に認められていない。そのようにして移された意識や記憶は<人間>とは見做されない。だから彼女はもう現在の法律上は死んだことになる。彼女がどれほど人間らしく振舞おうが、ロボットの体の彼女はロボットと同じ扱いになるということだ。
もっとも、当のメルシュ博士はそんなことは百も承知の上だし、何一つ気にもしてなかった。彼女にとってはそんなことはどうでも良かったのだ。彼女の頭にあるのは自分が興味を抱いたものに対する好奇心・探究心だけで、自分が人間かどうかすら些細なことでしかなかったのである。
「いやはや。ここは本当に素晴らしいな。何をやろうと、煩く言ってくる奴らもいない。私にとってはまさしくパラダイスだよ」
メルシュ博士は嬉しそうにそう声を上げた。しかしその姿はどこか狂気をはらんだものにも見えた。いや、実際に人としての倫理観すら持ち合わせていないのだからおそらく狂っているのだろうが。
それでも彼女の情熱は本物だった。そして彼女はさらなる興味を抱いていた。
「せっかく若い男のCLS患者が手に入ったのだ。次はCLS患者同士で生殖が行えるのかどうか確認しよう」
「博士、それってまさか…?」
「もちろん子作りのことだよリリアテレサくん。決まっているじゃないか!」
冷めた視線を向けるリリアテレサに振り返ったメルシュ博士の目は、楽しいことを見つけた子供のようにきらきらしていたのだった。
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