絵里奈の独白

京衛武百十

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朝の出来事

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こうして私達は、本当に家族のようにして週末を過ごすようになった。ちょうどいい物件はなかなか見つかる気配がなかったけど、それはもう焦っても仕方ないと思う。だからのんびりと構えよう。私達のペースでやればいい。

それに、彼の狭いアパートの部屋での暮らしも、別に何も不便も不満もなかったむしろいつも一緒にいられるのが心地好かった。

だから私はいつしか、それが当たり前になってたんだと思う。『そうなるのが当たり前』って、心のどこかで思ってたんだろうな。

沙奈子ちゃんが私のおっぱいを吸うのも、玲那が彼のことを『お父さん、お父さん』と呼んで甘えるのも。そういう状況の中で、私自身が無意識のうちに自分の役割みたいなものを決めてたんだと思う。

もちろん、いたるさんのことは好き。その気持ちに嘘はない。だけど私のその気持ちは、異性に対するそれとは違うと自分では思ってた。

でも、いつの間にか、自然に、何の違和感もなく、私は自分の役割に入り込んでたんだろうな。そしてそれは、彼も同じだったのかも……。



土曜日。昨日の夜に帰ってきてから四人で過ごした朝。いつものように朝食の用意を始めてた私は、何気ない気配に振り返った。いたるさんだった。

『おはよう』

『おはようございます』

声には出さずに挨拶を交わして、二人で朝食の用意をした。その中で、何となく、本当に何となく彼と目が合って見詰め合ってしまった。

柔らかくて、穏やかで、あたたかい空気に包まれてるのが分かった。

それが心地好くて、その空気に導かれるように、私は自然に彼との距離を縮めていた。そして唇から伝わる感触。香保理かほりとも玲那とも違うのに、決して不快じゃない。

彼の、いたるさんの唇だった。

私達は、お互いに、そう確認した訳でもモーションを掛けた訳でもないのに、そうするのが当たり前のようにキスを交わしてたのだった。

…え?。

と、自分でキスをしておいて、私は驚いてた。しかも、彼も私と同じように驚いた顔をしてた。ハッとなって顔を離すと、また彼と見詰め合ってしまった。

なのに、ドキドキするとか気分が舞い上がるとか、そういう感じは殆どなかった。もちろん顔が熱くなるのは分かったけど、焦ってるって訳でさえなかった。むしろ、勝手に顔がほころんでしまう。そしてそれは彼も同じだったみたい。

それから私達は、今度はちゃんと分かってて、そうしようと思って唇を重ねてた。

まるで、さっきのそれが本当のことだったのかどうかを確かめようとするかのように……。

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