絵里奈の独白

京衛武百十

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お母さん、大好き…

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『お母さん、大好き…』

沙奈子ちゃんのその言葉に、私はもう号泣してた。声は出さないようにしてたけど、涙を止められる気もしなかった。いたるさんも泣いてた。玲那も泣いてる気配がしてた。

そんな中で、沙奈子ちゃんが、

「お父さん…」

って彼を呼んだ。

「何だい、沙奈子…?」

って彼が応える。そしたら、

「お父さん、大好き…」

だって……。

それからまた、

「おねえちゃん…」

って言って、玲那が、

「なあに、沙奈子ちゃん…」

と完全に涙声でやっとの感じで応えると、

「おねえちゃんも大好き…」

だって……。彼の向こうでよく見えないけど、きっとボロボロに泣いてるんだろうな。玲那…。

「お父さん…、お母さん…、おねえちゃん…」

沙奈子ちゃんにそう言われたらもう、言葉にならなかった。胸が詰まってしまって。

「私…、みんなのこと大好き……」

私も、玲那も、いたるさんも、何も言えなかったんだ。

彼女はきっと、そんな風に言いたかったんじゃないかな…。お父さんとお母さんに囲まれて、家族に囲まれて、ずっとずっと、そんな風に『大好き』って言いたかったんじゃないかな。それがようやく叶ったんだ。

玲那もそうだった。彼女も本当はお父さんやお母さんを『大好き』って思いたかった。だけど玲那の両親は、そんな風には決して思えない人達だった。何しろ自分の娘のことを<商品>としか思ってなかった人達だったから……。

その日、私達は、みんなでくっついて寝た。気が付いたらそんな感じで寝てた。だけどそれが心地好かった。なんて言うか、本来の姿をようやく取り戻したんだって思えた。

私も、玲那も、沙奈子ちゃんも、彼も、みんなみんなすごく遠回りしてようやくあるべき形に戻ったんじゃないかなって気がする……。

家族が揃ってて幸せなんて、本来ならどうってことのない話なのかもしれない、幸せと感じるのも変なくらい、当たり前のことなのかもしれない。だけど私達はようやくそれを手に入れたんだ。掴むことができたんだ。

それが嬉しい。玲那と沙奈子ちゃんにこういうあたたかい場所を作ってあげられたことが嬉しい。私は、その為にいるんだって感じる。

いたるさんのことは好き。本当に好き。でも私のそれは、仏の恋愛としての『好き』とは違うのかもしれない。私も彼も、ある役割を果たす為にこうして巡り合ったんじゃないかって思うんだ。

『お母さん』と『お父さん』っていう役割を果たす為に。

そういうの、普通は嫌がることなのかもしれない。最初からその為に恋愛する訳じゃないって殆どの人は思うかもしれない。

だけど私は、そうであることが嬉しかったんだ。

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