絵里奈の独白

京衛武百十

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手の平返し

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私は決して善人じゃない。聖人でもない。『死ねばいいのに』なんて汚い言葉が当たり前に出てきてしまう、狭量でさもしい凡人だ。

そんな私を、山下さんは疎んだりしなかった。見下したりもしなかった。『死ねばいいのに』なんて言葉を吐いてしまって後悔する私を、彼は許してくれた。

他人を失敗を責めるだけの人ならこの世にはいくらでもいると思う。他人のした些細な失敗を、まるで鬼の首でも取ったかのようにあげつらう人は数限りなくいる。

でも、そういう人ほど、自分の失敗には甘いんだよね。自分の失敗は見逃してもらえると思ってる。人を傷付けるような発言をしても許されて当然だと思ってる。汚い言葉で他人を罵ることを、当然の権利のように思ってる。

だけど、彼はそうじゃなかった。汚い言葉を使うのは良くないことだと自覚しつつ、ついうっかりっていうことまで目くじら立てて責めたてる人じゃなかった。自分で反省して次から気を付けてくれるならそれでいいって思ってくれる人だった。

こんなに大きな器を持った人を、私はこれまですぐ傍で見た覚えがない。少なくとも私の両親とは全く違う世界の人だと思った。だからすごいって感じた。救われるような気がした。

素敵すぎますよ、山下さん……!。

はっきり言って外見だけならずっと上等な人はいくらでもいると思う。むしろ目立たなくて地味な部類だっていうのは間違いない。ただ、不潔な感じはしなかった。ちゃんと気遣いのできる人だっていうのも分かった。その上で大きな器を見せつけられたら、好感度は天井知らずじゃないですか。

私がこれまで男性に抱いてたネガティブな印象が、殆どない。

彼のことを知れば知るほど、こうやって言葉を交わせば交わすほど、嫌いにならなきゃいけない要素が見当たらない。

中学高校の頃に私の周りにいた女子が、誰かのことを『好き好き♡』と騒いでたのにある時を境に急にその誰かのことを馬鹿にしたりし始めるなんてこともよく目撃した。その相手の一面だけを見て熱を上げて、でも何かのはずみで別の面を見てしまったことで手の平を返すなんていうのは当たり前にあった。

私はそういうのが嫌いだったけど、それでも自分の中にもそんな部分があるんだろうなとは思ってた。山下さんのことを『好き』だと思いつつ、でも私にとって嫌な面が見えたら一瞬で冷めてしまうっていうのがあるんだろうって気はしてた。

なのに、山下さんが相手だとそういうのがまったくないの。彼のことを知れば知るほど、彼を好きになっていく自分がいるの。

こんな出逢いって、本当にあるんだなあ……。

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