絵里奈の独白

京衛武百十

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気持ちの問題

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玲那と一緒にワクワクしながら眠って朝を迎えた土曜日。さあ、今日は山下さんのお宅に行くぞ~。

ウキウキしながらも、実は私はこの時、一つの決心をしてた。以前から少し考えてはいたけれど、ようやく踏ん切りがついたんだ。

今日のお昼に使う予定の食材や財布、携帯を入れたトートバッグと、今朝起きて朝一で用意した黒いバッグを手に、私は玲那と一緒に部屋を出た。

「いつもこれくらい空いてたらバスでもいいんだけどな~」

空いてると言っても座席は満席だけど、男性と密着しないといけない程は混んでないバスに乗って、玲那はそんなことを言った。通勤時の混雑を思い出してるんだと分かった。

就職してまだ間もない頃、その時はバスで通勤してたらしい彼女は、混雑したバスで男性と密着したことでパニックになり、過呼吸を起こして気を失ったことがあったそうだった。それからは自転車通勤にしたんだって。

電車なら女性専用車両があったりもしてマシかもしれないけど、バスだとそうはいかないからね。かと言って毎日タクシーで通うわけにもいかないし、タクシーだって男性ドライバーだと緊張してしまって疲れるそうだった。

無責任な人は、そういうのを『甘えてる』とか『気持ちの問題だ』って言う。でもそういう人だって自分が本当に耐えられない状況になったらどうなんだろう?。それを『甘えてる』って言われたら、どんな気持ちになるんだろう?。本当に泣き言さえ言わずにいられるの?。

彼女は別に、耐えられるのに耐えない訳じゃない。自分でもどうしようもないから無理なだけなの。そんな事情も考慮できない人が根性論みたいなのを口にしてるのが私は大嫌いだった。それが男性でも女性でもね。

そう、女性だって他人の気持ちなんかまるで考えようとしない人はたくさんいる。自分の気持ちばかり優先して他人のことなんかまるで考えてない人が。

私だってそういう面がまったくないとは言わないけど、だからいちいち面と向かって文句は言わないけど、そういう人に偉そうにされるのは気分が悪い。

私の実の母が、まさしくそのタイプだった。父の再婚相手の新しい母も、実の母ほど露骨じゃないにしても本性はそうだっていうのも感じてた。

だから今では、殆ど両親とは没交渉なんだよね。

それを寂しいと感じたことなんて全くない。私は、あの人達のことが心の底から嫌いなんだと思う。世間からは<良い両親>って思われてるであろうあの人達のことが。他人からは<良い人>そうに見えるように振る舞いながら、その実、家族なんて自分の肥やしくらいにしか思ってないあの人達のことが。

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