絵里奈の独白

京衛武百十

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二人の邪魔は

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『今度の土曜日、お邪魔してもいいですか?』

そう問い掛けた玲那に、山下さんは穏やかに『いいよ』と言ってくれた。ただ同時に、

「沙奈子は午前と午後に一時間ずつ勉強するから、それは承知しててもらわないといけないけどね」

とも言われたけど。

でもそれについては私達も何一つ異論はなかった。

「もちろん分かってます。私たちもお手伝いできることあったらお手伝いします」

玲那がそう言って、私も続けて、

「二人の邪魔はしませんよ」

とウインクをしてしまった。

また沙奈子ちゃんに会えるということもあって、つい調子に乗ってしまったかなとは思いつつ、でも彼の様子も別に変わった感じもなかったから、それでいいかなって。



「よっしゃ~!。また沙奈子ちゃんに会いに行ける~!」

土曜日に山下さんの部屋にお邪魔する約束を取り付けられて、玲那はすごく浮かれてた。でもそれって、彼の部屋に行けるのが嬉しいのか、沙奈子ちゃんに会えるのが嬉しいのか。

その両方だっていうのは分かるけど、逆にそれだけに先は長そうだなって感じもしてしまった気がした。だって、やっぱり彼と恋人同士になりたいとか、そういうのがまったく伝わってこなかったし。

だけど、それでもいい。焦らなくていいと思う。ゆっくりゆっくり距離を縮めていければって。

彼も、相変わらず私達のことを異性として意識してる感じがまったくない。そういう意味では彼の方から焦ってアプローチを掛けてくるとかそういうのもないんじゃないかな。変にそんな風にされると引いてしまうけど、山下さんに限ってはそういう心配がないからありがたかった。

私や玲那が男性を怖いと思ってるのと同じに、彼は女性を、と言うか他人そのものを怖がってるっていうのも感じて、だから彼が積極的にならないっていうのがはっきりと感じられてきてた。だから焦っていきなり距離を詰めようとするのは逆効果だって感じてる。

彼にアプローチするには、きっと、慎重すぎるくらい慎重でちょうどいいと思うんだ。

そんな訳で、これといってぐいぐいとアピールするようなこともしなかった。こうして毎日顔を合わせて他愛ないおしゃべりを楽しむだけでいいと思う。変に気合を入れた格好やメイクをする必要もない。まるで家族みたいに気取らずに気負わずに、何気ない感じで一緒の時間を過ごせばいいと思う。

でもそれって、本当に家族みたいだよね。

だから改めて思った。私達は<家族>になりたいんだなって。血は繋がってないけど、まったく別々のところで育ったけど、初めからそうだったみたいに家族になりたいんだって。

…そっか、こういう感じだったら、家族っていうのも悪くないかな……。

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