絵里奈の独白

京衛武百十

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この人でなきゃ

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『お話ししてただけだよ。ホントだよ』

玲那れいなは、悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。すると沙奈子さなこちゃんが私を見上げた。それは、玲那の言ってることが本当かどうかを確かめたいっていう目だったと思う。だから私は応えてた。

「大丈夫。玲那お姉ちゃんの言ってることは本当だよ。私が保証する」

ウインクしながらそう言うと、沙奈子ちゃんは少しだけホッとしたみたいな顔になった。

ああ…、沙奈子ちゃん…!。山下さんじゃなくて私のことを頼ってくれた。私のことを……。

また胸がキュンキュンしてしまう。

それが嬉しくて、さっき、玲那と山下さんがいい雰囲気だったのに気付いた時に胸が痛んだような気がしたことも、私は忘れてた。忘れようとした。そう、あれは気のせい。気のせいじゃないとしても、『玲那を山下さんに取られる』んだっていうのを自覚したせいでちょっとヤキモチ妬いてしまっただけ。きっとそういうことなんだ。

そっちはそういうことで片付けて、でも、今日、ここまで沙奈子ちゃんと接してきて感じたことを、私は改めて口にした。

「今日、沙奈子ちゃんとこうやって一緒にいて思いました。私達が感じたことは間違ってなかったって。沙奈子ちゃんには山下さんのやり方が一番なんだって。沙奈子ちゃん、こんなにいい子でいられてるんですから」

それが、私の印象。

あんなに他人を警戒して怯えてたこの子が、私達に挨拶してくれるようになった。話し掛けたら聞いてくれるようになった。いくら自分も興味のあることだと言っても、私と一緒に買い物も楽しんでくれるようになった。それどころか、今ではこうして手まで繋いでくれてる。

それもこれも、きっと、山下さんが沙奈子ちゃんをとても大切にしてきてくれたから。彼が、この子に、『心を開いても大丈夫な他人もいる』っていうことを、ここまで丁寧に丁寧に分からせてあげてきてくれたから。その結果が今の沙奈子ちゃんだと思うから。

もし、彼が身勝手で自分の都合ばかりを彼女に押し付けるような人だったら、決してこうはなってないと思う。彼女は今でも固く心を閉ざしたまま、誰とも口なんかきこうとしなかったと思う。この沙奈子ちゃんの姿こそが、山下さんっていう人を端的に表してるんだって私は思った。

だからやっぱり、この人なんだ。

この人でなきゃいけないんだ。

玲那を幸せにしてくれる人は。

そしてその為には、沙奈子ちゃんも幸せにならなきゃいけないんだ。

私達は決して、沙奈子ちゃんから山下さんを奪って幸せになりたいんじゃない。この子も一緒でなきゃ意味がないんだ。

私はまた涙が込み上げてくるのを感じながら、沙奈子ちゃんの手を握り締めて、私を見上げてくる彼女の目を見詰めながら言った。

「これからも、私たちも力にならせてください。お願いします」


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