絵里奈の独白

京衛武百十

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対抗心

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この時の沙奈子ちゃんの様子は、さすがに大人がボロボロと涙を流してる光景にちょっと戸惑ってるみたいな感じもあったけど、それまでの怯えた姿とは全然違ってた。まだ受け入れてもらえたっていう程じゃないにしても、海の時のような強い拒絶は感じなかった。

それが嬉しくてテンションが上がってはしゃいでしまいそうになるのを抑えつつ、私達はアーケード街に向かって歩いてた。私も玲那も特に目的があった訳じゃないから、山下さんと沙奈子ちゃんについていくことにしたんだ。

「山下さん、何か気が付きませんか?」

その途中、玲那が不意にそんなことを彼に訊いた。その意図が私にはすぐ分かったけど、彼は数瞬の間をおいて、ハッとした顔になった。

「それ、もしかして僕の…?」

彼が気付いてくれたことに玲那はすごく嬉しそうに微笑んだ。まるで子供みたいに無邪気な感じで彼がプレゼントしてくれたストールを掴んでそれで顔を隠すみたいにした。

彼女はストールを緩く首に巻き、私はポンチョみたいに羽織ってピンで留めていた。正直、こうして歩いてると少し暑いくらいだけど、そんなことは気にならないくらい、私も嬉しかった。

「せっかくの山下さんのプレゼントだから、身に着けて二人で出掛けようってことになったんです。そしたら偶然」

私がそう言うと、彼は照れくさそうに頭を掻きながら、

「喜んでもらえたみたいで、僕も嬉しいよ」

って言ってくれた。でもその時、沙奈子ちゃんはちょっと拗ねてるみたいな表情で山下さんを見上げてた。やっぱりまだ、こういうのを目の当たりにするとヤキモチ妬いちゃうんだなって感じた。

だから私は身をかがめて穏やかな感じになるように意識して、

「沙奈子ちゃん。ありがとう。これ、沙奈子ちゃんからのプレゼントでもあるんだもんね」

と話し掛けてた。でも、私のその言葉に彼女は『何だか複雑』って表情をして、

「私もプレゼントしてもらったもん…」

って。

呟くような、独り言みたいな小さな声だったけど、それは間違いなく沙奈子ちゃんの『気持ち』が乗せられた言葉だった。すると山下さんが、

「二人の分と一緒に、沙奈子にも買ってあげたんですよ。そのことだと思います」

って補足してくれて私達は『そういうことか!』と腑に落ちた。

「そうだよね。山下さんにとっては沙奈子ちゃんが一番大切な人だもんね」

と私。

「私達も、沙奈子ちゃんと山下さんのことが好きなんだよ」

と玲那。

沙奈子ちゃんが私達に対してヤキモチというか対抗心を燃やしてるんだって分かって、でも山下さんが本当に一番大切にしてるのは沙奈子ちゃんなんだってことを伝えたくて、私達はそう言った。

私達の言葉を聞いた彼女が彼を見上げると、山下さんはいっそう優しく微笑んで、はっきりと言ったのだった。

「そうだよ。僕は沙奈子のことが一番好きだ」

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