絵里奈の独白

京衛武百十

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偶然

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日曜日。昨日のギャラリーはすごく良かった。私は楽しめたけど、玲那はただ山下さんがプレゼントしてくれたストールを巻いて出掛けたかっただけだったし、殆ど見てなかったけどね。

「ねえ、明日も出掛けようよ。新京極辺りを適当にぶらつくだけでもいいからさ」

帰ってからもそんなことを言うから、

「分かった。じゃあ、明日も出掛けよ」

ってことで、今日も、特に決まった目的はないけどウインドウショッピングということで出掛けることにした。

ただ、玲那はバスが苦手だから、地下鉄で行くことにする。本当は電車も苦手なんだけど、ラッシュ時以外ならバスよりはマシらしい。最寄り駅までは遠くても、二人で歩けば苦にならない。

そうして地下鉄で駅を降りて地下道をぶらぶらと歩いていると、玲那が急に「あっ!」って声を上げた。「どうしたの?」って聞きながら彼女の視線の先を見ると、私もその意味を理解した。案内板の前に立ってそれをじっと見詰めてる、二人の人の姿。

「山下さん、沙奈子ちゃん!」

殆ど無意識に、私達は声を合わせてそう呼んでいた。「え?」って感じでこっちに振り返った姿を見て、改めて確認した。そこにいたのは間違いなく山下さんと沙奈子ちゃんだった。

まさかの偶然に、私は顔が熱くなるくらいに胸が高鳴るのを感じた。それは玲那も同じだって顔見ればすぐに分かる。

「今日はお出かけですか?」

玲那がそう声を掛けて小さく手を振りながら近付いていくから私もそれに倣った。でもそんな私達に気付いた途端、沙奈子ちゃんは山下さんの陰に隠れるように彼に抱き付くのが分かった。まだ警戒されてるんだなって胸がチクリと痛んだ。

それでも、

「沙奈子ちゃん、こんにちは」

って、玲那と二人で身を屈めて、なるべく沙奈子ちゃんの視線の高さに合わせて穏やかな感じになるように挨拶させてもらった。

たぶん、さらに隠れるみたいにされるんだろうなって思いながらも、それは仕方ないなと覚悟してた。

それなのに……。

それなのに、私達の耳に届いてきたのは……。

「こんにちは…」

……え…?。

え…?、沙奈子ちゃん、今……?。

一瞬、何が起こったのか理解できなかった。数瞬遅れてやっと頭に入ってくる。

けれど、まったく予測してなかったそれに、私も玲那も両手で顔を覆ってしまった。その瞬間、私の中から何かがものすごい勢いで溢れてきて、胸が詰まった。そして抑えることもできずに溢れ出す。

涙だった。私の両目から、栓が壊れたみたいに涙が零れ落ちていたのだった。

「ありがとう…、ありがとう沙奈子ちゃん…、嬉しい……」

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