絵里奈の独白

京衛武百十

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信じ切れない

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でもそう言った私に対して、玲那が納得できないって感じで言ってきた。

「だけどそれって、誰にでもあることじゃないの?。そんなのいちいち気にしてたら誰も信用できないと思うけどなあ」

確かに玲那の言うことにも一理あると思う。けれど、そんな彼女に山下さんは言った。

「そうだね。そうかも知れない。そういうことをいちいち気にする僕は、誰のことも心の奥底では信じてないんだ。たぶん、沙奈子のことも信じ切れてないんだと思う。だから、自分に言い聞かせてるんだ。『演技だっていいじゃないか。沙奈子がそう言ってくれてるんだから』ってね」

『誰のことも心の奥底では信じてない』。

その言葉が、胸に突き刺さる。それはたぶん、私達も同じ……。

私達も、心の奥深く、無意識のレベルでは誰のことも信じてないってことを感じてた。私は玲那のことを、玲那は私のことを、実は心の底から信じられてる訳じゃないって。それどころか、私達は自分自身のことさえ信じ切れてない。

だからこそ、お互いに、自分が思ってることを口にして確かめ合ってるんだ。体を合わせてお互いの気持ちを確かめ合ってるっていうのもあるんだ。

『私は今、こんな風に思ってるよ?。こんな私でも受け入れてもらえる?』

って……。

言葉がなくても通じ合うなんて嘘だ。心と心で通じ合ってるなんて嘘だ。そんなの、感情が盛り上がってる時のまやかしでしかない。実際にはそんな時でも微妙に気持ちはすれ違ってて、だけど『言わなくても分かってくれる』って思い込もうとして口にはしなくて、それでズレが決定的になってきてから『どうして分かってくれないの!?』とか言って揉めるんだ。

それって結局、お互いに本当には分かり合えてなくて、そして相手のことを本当には信じ切れてなかったってことじゃないかな。

相手のことを好きとか愛してるとかいう気持ちは嘘じゃなくても、百パーセント完璧には分かり合えない。

その、完全には分かり合えない部分で相手をどう受け止めるかっていうのが、人間関係では求められるんだと思うの。

「……」

「……」

私も玲那も、言葉がなかった。言葉もなく彼を見詰めてた。

山下さんは続けた。

「それに沙奈子は、今までずっと大人に裏切られ続けてきたんだよ…。

だからあの子はどんなに僕を信じたくても、心のどこかではいつだって不安なんだと思う。いつか捨てられるんじゃないかっていう不安をずっと抱えてるんだと思う…。

そのせいで、二人へのプレゼントを買うってだけで不安が爆発してしまったんじゃないかな。沙奈子自身が、僕のことを完全には信じ切れてないんだよ」

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