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笑顔
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「え~、でも『立派』って言い方はなんかあんまり嬉しくないかな~」
『昨日はすごく立派だったと思いますよ』って彼に言われて、頭を掻きながら玲那はそう言ったけど、それが照れ隠しだというのも分かった気がした。
でもその時、彼の表情が『あれ…?』って感じになるのが感じられた。そのまま私達を見詰めてる。
それに気付いた玲那がフッと笑った。
「気が付きました?。私達、メイクを変えてきたんです」
そう。彼女の言うとおりだった。
玲那は髪をアップにして後ろでまとめて、目元もナチュラルに仕上げてたし、私も、髪に掛けたパーマはまだ残ってるけど自然に流してきただけだし、目元もやっぱりナチュラルな感じに仕上げてきた。二人とももう、香保理に似せたメイクはしてない。
戸惑ってる感じで私達を見てる山下さんに、やっと顔のほてりが少し収まった私は静かに口を開いた。
「昨日、仕事が終わってから玲那と話したんです。香保理が亡くなったこと、私達ももうちゃんと受け止めなきゃいけないって。いくら香保理の真似したって、私たちは彼女じゃないからって…」
そう言葉にした途端にまた込み上げてきちゃったけど、もう彼の前で無理をしても意味がないと思って我慢しないことにした。彼を真っ直ぐに見詰めて、私をちゃんと見てもらおうと思った。すると玲那も頷きながら言った。
「彼女のことをこんなに話したのは、山下さんが初めてです。私も、山下さんに聞いてもらったら、なんだかこう、胸の辺りがすごく楽になった気がして、ああ、彼女はもう亡くなったんだなあって素直に思えるようになったんです」
香保理のことを忘れるなんて私達にはできない。でも、あの事故を無かったことにもできない。だから、香保理が亡くなった事実をただ事実として受け入れることにしたんだ。それが私達にできることだったから。たぶんそれしかできないから。
そして私達は互いに顔を見合わせて、それから彼の方を向いて微笑った。それはきっと、この時の私達にできた一番の笑顔だったと思う。
そんな私達を、山下さんはただ黙って受け入れてくれた。私達を見詰める目が、どうしようもなく胸を締め付けるくらい優しかった。その目に見詰められると、何だかこのまま彼の胸に縋りついてしまいたくなる感じさえした。
ああ、でもダメダメ。彼は玲那が好きな人だから。彼には玲那を幸せにしてもらいたいんだから。私じゃなくて。
私はただ、この二人の手助けができればいいの。玲那に幸せになってもらう為に、私はこうしてるんだから。
『昨日はすごく立派だったと思いますよ』って彼に言われて、頭を掻きながら玲那はそう言ったけど、それが照れ隠しだというのも分かった気がした。
でもその時、彼の表情が『あれ…?』って感じになるのが感じられた。そのまま私達を見詰めてる。
それに気付いた玲那がフッと笑った。
「気が付きました?。私達、メイクを変えてきたんです」
そう。彼女の言うとおりだった。
玲那は髪をアップにして後ろでまとめて、目元もナチュラルに仕上げてたし、私も、髪に掛けたパーマはまだ残ってるけど自然に流してきただけだし、目元もやっぱりナチュラルな感じに仕上げてきた。二人とももう、香保理に似せたメイクはしてない。
戸惑ってる感じで私達を見てる山下さんに、やっと顔のほてりが少し収まった私は静かに口を開いた。
「昨日、仕事が終わってから玲那と話したんです。香保理が亡くなったこと、私達ももうちゃんと受け止めなきゃいけないって。いくら香保理の真似したって、私たちは彼女じゃないからって…」
そう言葉にした途端にまた込み上げてきちゃったけど、もう彼の前で無理をしても意味がないと思って我慢しないことにした。彼を真っ直ぐに見詰めて、私をちゃんと見てもらおうと思った。すると玲那も頷きながら言った。
「彼女のことをこんなに話したのは、山下さんが初めてです。私も、山下さんに聞いてもらったら、なんだかこう、胸の辺りがすごく楽になった気がして、ああ、彼女はもう亡くなったんだなあって素直に思えるようになったんです」
香保理のことを忘れるなんて私達にはできない。でも、あの事故を無かったことにもできない。だから、香保理が亡くなった事実をただ事実として受け入れることにしたんだ。それが私達にできることだったから。たぶんそれしかできないから。
そして私達は互いに顔を見合わせて、それから彼の方を向いて微笑った。それはきっと、この時の私達にできた一番の笑顔だったと思う。
そんな私達を、山下さんはただ黙って受け入れてくれた。私達を見詰める目が、どうしようもなく胸を締め付けるくらい優しかった。その目に見詰められると、何だかこのまま彼の胸に縋りついてしまいたくなる感じさえした。
ああ、でもダメダメ。彼は玲那が好きな人だから。彼には玲那を幸せにしてもらいたいんだから。私じゃなくて。
私はただ、この二人の手助けができればいいの。玲那に幸せになってもらう為に、私はこうしてるんだから。
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