絵里奈の独白

京衛武百十

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駄目な私

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玲那は続ける。

「だけどその日、彼女はいつもよりちょっとだけ深く切ってしまったのかも知れません。お酒を呑んでたから、手加減を間違ってしまったんだと思います。その上で寝込んでしまって、結果的にそうなってしまった……。

そうです。彼女が亡くなったのは事故です。自殺じゃありません。他の誰も信じなくても、私達だけは事故だというのを信じてます」

私が顔を上げることもできない中、玲那は彼を真っ直ぐに見詰めてるのは分かった。彼もそんな玲那を真っ直ぐに見詰めてた。

その時、フッと玲那の雰囲気が変わるのを感じた。はっきり見た訳じゃないけど、彼女が微笑んだような気がした。

「そして私達はお互いに、彼女はまだ生きてるんだって、本当は死んでないんだって言い聞かせるために、彼女に似せてメイクするようになったんです。それがただの気休めだっていうのはもちろん分かってます。でも、私達は今でも納得できないんです…」

そこでようやく、玲那は話を途切れさせた。ハンカチを取り出して、涙を拭いてた。そんな彼女を、彼が見てるのも分かった。見守るような表情で。

その彼に向かって、涙を拭った玲那が更に言葉を続けた。

「だから、私達、沙奈子ちゃんの為に何かできたらって思ってしまうんですよね。私たちが山下さんに声を掛けたのは本当に偶然だったんですけど、まさかその山下さんが虐待を受けた子を育ててるなんて、まるで香保理かのじょが私達を山下さんに引き合わせてくれたんじゃないかって気がしてます」

結局、玲那は、私達が山下さんに声を掛けることになったきっかけも、香保理かほりのことも、全部話してくれた。本当なら私が彼女をフォローする為に言う筈だったことを全部彼女に言わせてしまった。

ごめん…、ごめんね、玲那……。私、本当に駄目な人間だよね……。

社員食堂でこんな話をしてて、しかも女二人が泣いてるのに、周囲は殆ど私達に関心を抱いてないようだった。まるで私達三人だけで話をしてる感じだった。

でも、無関係な人にとってはそういうものなんだよね。私の気持ちも、玲那の過去も、香保理の事故も、他人にとっては本当にどうでもいい些細なこと。

昔はそれを恨んだこともある。自分の気持ちを分かってくれないとか、玲那の過去を茶化して自分達の慰みものにしそうな連中なんてみんな死ねばいいとか、香保理の死を自殺と決め付ける奴らはただの馬鹿だとか、そんなことばかり思ってた時期もある。ううん。内心では今でもそう思ってる部分はある。

でも、今はむしろその無関心さや無理解がありがたかった気がする。そのおかげで、しっかりと玲那が彼に話せたんだから。

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