絵里奈の独白

京衛武百十

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「女の子って、何歳くらいで父親と一緒にお風呂に入らなくなるもんなんですか?」

翌日のお昼。山下さんが私達の誕生日を気にしてくれてたってことに浮かれた気分になってたら、彼が突然、そんなことを言い出した。

「え?。どうしたんですか急に?」

さすがに玲那れいなが驚いて訊き返す。でも私は何故かピンときて、

「あ、もしかして沙奈子ちゃんの事ですか?」

と訊くと山下さんが頷いたから、

「そうですねえ。私は小学校の一年の頃には一緒に入らなくなったと両親から聞かされました」

って答えた。そんなような記憶があったから、素直にそう応えただけだった。

だけどその時、玲那が、

「私は二年生の頃です。クラスの男子が下ネタトークしてるのが嫌で、そのせいでお父さんのこともちょっとそういう目で見るようになったのがきっかけだった覚えがあります」

なんてことを言い出した。

だけどそれが本当のことじゃないのを、私は知ってる。それは、以前にも彼女が吐いた<嘘>。

実は玲那は、自分の子供の頃のこととか家庭のこととかを訊かれた時の為に、ある<ストーリー>を作り上げていた。それは、本当にどこにでもあるような<普通の家庭の日常の物語>だった。その中での話を、彼女はしたのだ。

玲那……。

さすがにまだ、本当のことは言えないよね……。

無理もないと思う。彼女の身に起こったことを思えば……。

だから私も敢えてその話に乗ることにした。改めて、私の方からは玲那の過去についてはなるべく触れないようにしようと思った。

「そうですか。普通はそんなもんなんですよね」

そう答えた山下さんに、私は努めて平静を装って問い掛ける。

「沙奈子ちゃん、一人でお風呂に入れないんですか?」

その問いに、山下さんも躊躇うことなく答えてくれた。

「一人で入れないことはないんですけど、一緒に入りたいらしいんです。これはどういう心理なんでしょう?」

私もまだ子供を育てたことがないからその辺りのことはよく分からないけど、自分が小さかった頃にどう思ってたかっていうので答えればいいのかな。

私がそんなことを考えてる間に、玲那が先に口を開く。

「それはずばり、沙奈子ちゃんにとって山下さんは<お父さん>であって、<男の人>じゃないからじゃないですか」

なるほどと思った。確かにそういうのはある気がする。ただ、山下さんが訊きたいこととは微妙に違ってる気もして、私は補足の意味も兼ねて言った。

「沙奈子ちゃんはきっと、これまでお父さんに構ってもらえなかった分を取り戻そうとしてるんじゃないですか?。

私の印象だと、沙奈子ちゃんって、大人しくて積極的にはなれないけど、本当はすごく甘えっ子なんだと思います。だから本当はもっと早いうちに通過してるはずの<お父さんにいっぱい甘えたい>っていう気持ちが、今になってようやく報われたってことなんですよきっと」

私が山下さんの質問から感じたのは、『もう十歳なのに今でも父親とお風呂に入りたがるのは何故なのか?』ってことだった。だからそう答えたのだった。
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