絵里奈の独白

京衛武百十

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出逢ったばかりの頃を思えば、玲那れいなは本当に明るくなった。多分、彼女のことを良く知らない人が見たら同一人物だとは思えないくらいに変わったと思う。

だけどそれでもいいのかもしれない。

ただアニメのキャラクターの真似をしてるだけでも、ただの自己暗示からくる演技でしかなくても、あの、人を恨み憎んで殺しさえしかねない印象のあった姿に比べれば、ずっとずっとマシだと思う。

本質が変わってなくて、むしろ危険な本性が他人からは見えにくくなったっていう危険性があったとしても、ドブの中から人間の世界を妬ましそうに睨んでるみたいな、あんな目をした彼女はもう見たくない。

玲那が危険なものを抱えてるっていうのなら、私がそれを見張ってあげる。玲那がもし誰かを傷付けようとしても私が止める。彼女が構えた包丁の前に立ち塞がることになっても……。



「……夢……?」

朝、夢の中でそんなことを考えてたことに気付いて何とも言えない気分で目を覚ました。隣では、裸の玲那がまだ寝息を立ててた。

本当に、子供みたいな顔をして寝てる。これも、この子の本質なんだ。人を恨んで殺しさえしかねないどす黒い部分も、こうやって、何も知らない、ただただ無垢なだけの子供のような部分も、間違いなく彼女なんだ。

私は、そんなこの子を守りたい……。

穏やかな彼女の寝顔を見てその想いを新たにして、私はそっとベッドから出た。下着を身に付けて取り敢えず部屋着を着て、軽く髪を整えた。

鏡の中から、何のアピールポイントもない地味な女が私を見詰めてる。うん、今日も私は私だ。

それを確認して朝食の用意を始める。玲那も、やろうと思えば簡単な料理くらいは作れるんだけど、自分からはやろうとしない。その理由を私は知ってる。両親に召使のようにそれをやらされてきたからだ。

彼女はとことん、そうやって搾取され、酷使され、虐げられてきた。それがどれほどのことだったのか、直接話を聞いた私にも本質のところは分かってないと思う。ある程度は想像できても、完全にはたぶん無理だ。

だって、私はそこまでの目には遭ってないから。

玲那がされてきたことに比べれば、私が両親にされてきたことなんておままごとみたいなものかも知れない。気にする方がおかしいのかもしれない。だから私には玲那の苦しみが本当には分かってないんだって自分でも思ってる。

でも、痛いの。私に想像できる部分だけでも、痛くて苦しくて頭がおかしくなりそうなの。だから、もし、山下さんとの出会いが玲那に何か良い影響を与えてくれるならとも思ってしまう。

彼を前にして話しかけてみて感じたの。

この人、やっぱり何か違うって……。

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