絵里奈の独白

山下さん

玲那れいながアニメのキャラクターみたいに明るくなったのは、たぶん、私の為でもあったと思う。どうすれば私を励ませるのか、気持ちを明るくさせられるのか、楽しい気分にさせられるのか、そういうのを彼女なりに考えた結果だったんだろうな。

それに加えて、玲那には元々、精神的にひどく幼い一面があった。まるで小学生くらいの、ううん、それこそ十歳くらいの子供に見える時もあった。

それはきっと、彼女の最も辛い時期が始まった頃のだと思う。その頃から精神的な成長が止まってしまっているんじゃないかな。今になってアニメにハマったのも、アニメが好きだったのにちゃんと見られなかったというのが影響してるのかもしれない。そしてアニメからいろいろなものを学んでるみたい。

私は正直、アニメにはそんなに興味がなかったけど、玲那が私のことを考えてくれてるのはすごく感じてた。だからその気持ちが嬉しくて、そういう意味で癒されたし支えられもした。

それと同時に、私との時間は、彼女にとっても癒しであり支えだったと思う。香保理かほりと同じように赤ちゃんみたいに私の胸に縋りついて甘えてきた。

「ふかふか～、絵里奈のおっぱいふかふか～♪」

とか、歌うみたいに節をつけて言ったりとか。

「もう、なによそれ！。恥ずかしい…！」

私もついそんな風に言ってしまいながらも、決して嫌じゃなかった。

香保理と一緒に暮らしてた時と同じように、休みの日には一日中ベッドの中で裸で抱き合ってたりしながら、私達はなんとか精神的な安定を保ってた。

そんなある日、仕事のお昼休みに、社員食堂で玲那が私に耳打ちしてきた。

「あ、あの人、兵長に似てる…！」

そう言って玲那が視線を向けた先には、一人で黙々と昼食を食べてる男性社員がいた。私達よりは少しだけ年上っぽい、地味な普通の人だった。

玲那の言う＜兵長＞のことは、私はよく知らなかった。彼女がお迎えした怖い顔をしたドールを思い浮かべても、髪型くらいしか一致するところがないように思えた。

「そう？。よく分かんない」

本音を言えば私にとってはどうでもいい話だったし、その時は適当に受け流してた。男性には全く興味がなかったし。

玲那も本来、男性には興味がない、どころか恐怖感さえ抱いてるはずだった。だけど何故かアニメの男性キャラクターは平気みたいで、特に＜兵長＞に対しては心酔してるって感じすらした。

後から聞いた話だけど、玲那は、兵長を＜男性として好き＞という以上に、彼のその強い＜キャラクター＞に惹かれてたらしかった。強くて、自分というものをしっかり持ってて、信念を曲げなくて、玲那が嫌ってる種類の男性を片っ端からボッコボコにやっつけてくれそうっていう意味で好きだったみたい。

まあ、そういう意味でなら、分からなくもないかな。