絵里奈の独白

京衛武百十

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秘密

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玲那れいなの過去が分かったことで、香保理かほりと玲那の仲はさらに急速に深まったと思う。

私の胸がもやもやしてしまうくらいには。

それは、香保理自身も過去を打ち明けたのと同時に、彼女の<癖>についても打ち明けたからっていうのもある気がする。

そう。香保理にはあまり人には言えない癖があった。ただし、彼女の左腕をよく見れば大体の人が察してしまうものかもしれないけど。

香保理の左手首には、いくつもの赤い筋があった。リストカットの痕だ。彼女はリストカッターだった。

父親の虐待から逃れる為に何度もリストカットを行って、でも死に損なって、逆にそれが癖になってしまったのだ。リストカットによる痛みとそこから流れ出る血を見ることで自分が生きてるということ、死にたいと思って手首を切りながらも心のどこかでは『死にたくない』と感じてるのを自覚することで、彼女は自分が生きてる、生きたいと思ってるっていうのを実感するというのを続けてた。

私も、以前は何度もやめてくれるように懇願した。血まみれになった彼女を泣きながら叩いたこともある。でも、香保理はリストカットをやめられなかった。

「ごめんね…、ごめんね……」

血まみれの手で顔を覆いながら私に何度も謝る彼女の姿を見て、私もいつしかやめさせることを諦めてた。でもその代わり、

「絶対に死なないって約束して…!」

って彼女に迫ってた。香保理も、

「うん、約束する。死んだりしないよ」

って応えてくれた。

そして玲那も、自分で自分の体を傷付けてた。玲那の場合は、胸だったけど。

私の部屋でお風呂に入った時、見せてくれた。パッと見にはよく分からないけど、玲那が左手で右の乳房を持ち上げるようにした時、付け根付近に赤い筋がいくつも入ってるのが分かった。

「…中学の時、膨らんでくる胸が嫌で、自分で切り落とそうとしたんだ……。

私、自分が女だってことが許せなかった…。自分が女だったからあんな目に遭ったんだって、女じゃなかったらあんな目に遭わずに済んだんだって思ったから……。

だから胸を切り落とせば女じゃなくなれるかって思って……。

でも、無理だった…。何度やってみても駄目だった……。

それがまた嫌で、私、もう何も考えないようにしようって……」

出会ったばかりの頃、暗い顔してたのも、仕事を押し付けられても嫌な顔一つせず文句も言わずにこなしてたのも、それが理由だった。

『何も考えたくない』から、玲那は何も考えないようにしてたってことだった。

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