絵里奈の独白

京衛武百十

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あなたが、欲しい

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『私、行きたいところがあるんです』

私はそう言って、いたるさんを誘導するように彼の前を歩いた。いきなり『デートしてこい』とか言われたって何も考えてなかったし、それに、玲那が何を意図してたのかも察してしまってたから、もう<そこ>しか思いつかなかった。

いつもの大型スーパーの方に二人で歩く。だけど目的はスーパーじゃない。スーパーのすぐ近所にある、自動車でそのまま中に入っていけて、しかも目隠しのような大きなビニールの暖簾みたいのが掛かってる、特徴的な造りの建物。

どうしてこんな住宅地のすぐ近くにあるのかは知らないけど、もしかしたら<ビジネスホテル>という体裁で作られてるのかもだけど、たぶん誰も普通の<ビジネスホテル>とは思わない。

そう、<ラブホテル>ってやつだ。

『え…?』

って顔して戸惑ってる彼を引っ張るようにして私はそこに入った。もたもたと躊躇ってる方が逆に目立ってしまうから、堂々と当たり前みたいに入った方がいいんだ。それに私達は夫婦なんだから、誰憚ることもない。

受付けらしいところは無人で、代わりに部屋の様子を移した写真が並んでる。全部の写真に大きくベッドが写ってた。しかも写真にはボタンが付いてて、バックライトが消えてる写真のボタンもライトが消えてた。つまり<使用中>ってことね。

ほとんどの写真のライトは消えてたけど、少しライトが点いてる写真も残ってる。

どの部屋でもそんな大差ないだろうからとにかく目についた部屋のボタンを押すと、その下に鍵が出てきた。なるほどこれで開けるんだ。

案内板らしいものに矢印が点滅してて、そっちに部屋があるってことなんだな。

廊下の床にも矢印が点滅しててそれに従って歩く。彼は完全に私に引っ張られてる状態だ。

ドア脇のライトが点滅してる部屋があって、見ると鍵にかかれた数字と同じだった。ここがそうか。

鍵を開けてドアを押すと、部屋の明かりがパッと点く。すると、壁一面の大きな鏡と、部屋の大部分のスペースを占める大きなベッドが目に付く、もうそれこそいかにもな空間が目に入ってきた。

だけど、

「思ってたよりは普通な感じなんですね…」

って思わず声が漏れる。

「私も初めて入ったんですけど、なんかもっとこう派手でごちゃごちゃしてるイメージでした。しかもベッドも丸くないし」

そう。実は私もラブホテルそのものに入るのは初めてだった。玲那が『行ってみたい』って言うから二人でネットでいろいろ調べて、知識だけはあったんだ。

丸くて回るベッドっていうのにはちょっと興味あったんだけど、最近は設置してるところ少ないみたい。残念。

ここまでずっと唖然とした感じだったいたるさんと一緒にベッドに腰かけると、今ごろになって私も何だか恥ずかしくなってきた。

気まずい沈黙が続いて、でもそんなことしてたら時間がもったいないって思って、

「ふーっ…」

って大きく深呼吸して、

「お風呂、入りましょうか」

と声を掛けながら立ち上がって、

「たぶん、ここがそうじゃないかな」

と言いながらカーテンを開けると、そこには壁がすべてガラス張りのバスルームがあって、分かってたつもりだけどさすがに目の当りにしたらギョッとしてしまった。

でもおたおたしてるときっと余計に恥ずかしくなると思ったから、むしろ堂々と服を脱いで裸になった。顔が熱くて真っ赤になってるだろうなっていうのは感じてたけどさ。

彼も私に続いて服を脱ぎ始めてる間に、私は先にバスルームに入る。彼も顔が真っ赤だった。

だから私がリードするように、と言うか、相手は女性だけど、正直、私の方がたぶん、こういうことに慣れてると思う。彼はその様子を見てるだけで初めてだって分かるほどに戸惑ってたから。

シャワーを出してお湯を調節してると、彼も入ってきた。

二人でお風呂に入るのは初めてじゃなくても、あの時はお互いにそこまで意識してなかった。いや、あの時に初めて異性と意識したのかな。

彼を見ると、体の奥でまたジュンってなるのが分かった。私の体が彼を求めてるんだ。

そして私達は、シャワーを浴びながらキスをした。それまでの触れ合うだけのモノじゃなくて、お互いを貪り合うみたいな、激しい<大人キス>だった。香保理かほりや玲那を相手に経験してる私がリードしようと思ったのに、彼も負けじと私を求めてくれた。

ああ…、いたるさん、いたるさん、いたるさん……!。

好きです…!、愛してます……!。

あなたが、欲しい……!!。



そして私達は、自分の中に噴き上がる気持ちに素直に従って、突き動かされるままに強く求め合ったのだった。

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