絵里奈の独白

京衛武百十

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二人のおかげで

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沙奈子ちゃんが宿題をどんどん進めてる時、玲那が急に声を上げた。

「あ、秋嶋さんたちと集まるんだった。ごめん、ちょっと行ってくる」

と言って、パッと部屋を出て行って、

「おはようございま~す」

って挨拶しながら隣の部屋に入っていく気配がしてきた。

私はいたるさんと顔を見合わせてちょっと苦笑いになって、沙奈子ちゃんはそんな私達を何とも言えない顔で見てた。たぶん彼女の方が玲那のその行動を受け入れてたのかもしれない。

最終的にいつもより少し長く時間を掛けて、冬休みの宿題の三分の一ほどを終わらせてしまった。この調子だと、週が明けての月曜日にはもう、冬休みの宿題は全部終わってるってことにもなるかもね。

それから沙奈子ちゃんと二人で昼食の用意を始めようとした時、彼女の左腕の傷痕が見えてしまって、ぐっと込み上げるものがあって涙が溢れそうになってしまった。

『沙奈子ちゃん…、そんな傷痕のことなんて気にしない人はいるからね。そういう人を見付ければいいからね』

なんてことを思ってると、隣の部屋から、どっと笑い声が聞こえてきた。一人とか二人とかのじゃない。五~六人くらいはいそうだった。アパートの住人全員が集まってるんだろうなって分かった。玲那の笑い声も交じってる。

楽しそうなのはいいんだけど、何してるんだろうね。

今日の昼食は親子丼。用意が殆ど終わったところでスマホで玲那に電話する。

「あ、玲那?。お昼できたよ」

すると壁越しに、

「は~い、今行く~!」

って、電話が要らないくらいにはっきり聞こえた。

「ただいま~」と帰ってきた玲那は、よほど楽しかったのかすごく上機嫌な感じだった。

「いや~、充実した時間だったあ。まさかここまでアニメの趣味が合う人がこんなに近くにいるなんて思わなかったな~」

そうなんだ。それは良かったね。しかも、

「あ、お昼からも行くからよろしくね。買い物行くんだったらまた声かけて。一緒に行くから」

だって。

私はまた、いたるさんと顔を合わせて苦笑いになってしまう。だけど、玲那が楽しそうにしてるのは素直に良かったと思える。それも、男の人相手になんて……。

もちろん今までだってそういう機会はあったと思う。男性だって玲那とアニメ趣味が合うだけならきっとたくさんいた。でも、男性を怖がる玲那にはそれができなかったんだ。

昼食が終わると、言ってた通り、すぐまた隣の部屋に行ってしまった。

私達は沙奈子ちゃんが宿題をする様子を二人で見守る。その間にも、微かに隣から話し声や笑い声が聞こえてくる。

「おねえちゃん笑ってるね」

不意に沙奈子ちゃんがそう言いながらいたるさんと私を交互に見た。嬉しそうな顔だった。沙奈子ちゃんはしっかりと、玲那が楽しそうにしてることを受け入れてくれてるんだ。

「そうだね」

いたるさんが穏やかな表情でそう言うのを見て、また涙がこみ上げてしまう。この二人に出逢えて本当に良かった。二人のおかげで玲那が救われたんだと実感できたのだった。

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