絵里奈の独白

京衛武百十

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傷痕

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沙奈子ちゃんの、ドール用のドレス作りについては、怪我のこともあって当然休むことになった。

その代わりに彼女は、莉奈りな果奈かなを常に抱いてた。いたるさんが沙奈子ちゃんを膝に座らせてるのと同じように莉奈を自分の膝に座らせて、莉奈の膝の上に果奈を座らせてた。ちょっと、『親亀の上に子亀、子亀の上に孫亀』っていうのを連想してしまう。

しかもその上で、パズルをしてた。

「沙奈子ちゃん、新しいパズル欲しい?」

そんな姿を見てふと尋ねてみると、彼女は黙って頷いた。そういうのも、大事な情報だと思った。

いたるさんの話だと、ここに来たばかりの頃の沙奈子ちゃんはとにかく意思表示というものをしない、本当に人形みたいな子だったんだって。それが彼と一緒に暮らしてるうちに、何が欲しいのか要らないのか、訊かれれば応えるようになったって。

たぶん、彼女は今、その頃の段階まで戻ってしまってるって感じなんだろうな。だけど私が尋ねたことに応えてくれたということは、私や玲那のことは受け入れてくれてる状態だってことだとも思った。

今は、それだけでもホッとする。沙奈子ちゃんが大人を全く信用せずに拒んでた頃にまで戻ってしまった訳じゃないって分かったから。

とにかく、待つしかない。彼女の心がまたほぐれてくれるまで。



そうして私達は、ただただ穏やかに毎日を過ごすことを心掛けた。焦らず、急がず、無理をしないさせないように。

翌日の火曜日をには沙奈子ちゃんを病院に連れて行った以外は無難に過ごし、水曜日には玲那が自分の部屋からHDDレコーダーとポータブルTVを持ってきてアニメを見るようになって、

「ごめんお父さん、向こうの部屋でアニメをチェックするのが大変だからこっちで視聴環境整えさせてもらっちゃった」

とか言って彼を苦笑いさせてたりもしたけど、概ね穏やかだったと思う。

木曜日にはまたあの塚崎つかざきさんが来て沙奈子ちゃんの様子を確かめた上で、

「申し訳ございません。来支間きしまは現在、体調不良を理由に休職していまして、謝罪に来られない状態です。重ね重ねお詫び申し上げます」

って言ってた。だけど正直、あの人の顔は二度と見たくなかったから、もう別にいいけどね。

金曜日には再度、沙奈子ちゃんを病院に連れていく。傷の回復は順調だって話だったけど、やっぱり傷痕は残ってしまう可能性が高いと言われて、私はショックを隠せなかった。

玲那もそうだけど、女の子の体に傷が残るのは辛いよ。ましてや沙奈子ちゃんには、例の痣も残ってるのに……。

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