絵里奈の独白

京衛武百十

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紛れもない本音

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「この度は、本当に申し訳ございませんでした」

部屋に上がるなり、塚崎つかざきさんは両手をついて深く深く頭を下げてそう言ってくれた。そんな塚崎さんに対していたるさんが慌てたように返す。

「塚崎さんのせいじゃありません。それどころか塚崎さんのおかげでこれくらいで済んだって思ってます。こちらこそ本当にありがとうございました」

そう言って彼も手をついて頭を下げた。彼のそんな様子を見てるだけでも、この塚崎さんっていう人が信用に値する人なんだなっていうのが腑に落ちて、緊張感が解けていくのを感じる。

それから、塚崎さんが静かに話をしてくれた。

「今回、児童相談所に入った通報の件ですが、実は今朝、また別の電話がかかってきたんです。その内容は、『先の通報は間違いだ』っていうものでした。『自分は近くで様子をうかがってたけど、虐待とかそんなのなかった』っていうものでした」

その言葉に、私だけじゃなく彼も軽く混乱してるのが分かってしまった。

『近くで様子をうかがってたって…、誰が?。どうやって……?』

というのは気になりつつも、『虐待なんかなかった』って言ってくれる人がいたっていうのには正直ホッとするのが自分でも分かった。ちゃんとそういう風に見てくれてる人が他にもいたんだ。

塚崎さんはさらに続ける。

「そういう電話が入るくらいですから、ちゃんと裏を取ろうとすれば最初の通報が疑わしいものだっていうのはすぐに分かったと思います。今回、私たちはそれを怠ってしまったんです……。

悪戯や嫌がらせのために行われる虚偽の通報というのはこれまでにも何度かあったことですから、そういう可能性もきちんと検証しなければいけなかったんです。本当に申し訳ありません。来支間きしまには後日改めて謝罪に越させますので……」

そうだったんだ……。

本音を言うと、あの来支間っていう人にはここで土下座をしてもらいたいくらいの気分だった。床に付けた頭を足で踏みつけて、鼻血が出るまでゴリゴリとこじってやりたいとさえ思ってた。

だけどそんな風に思ってる自分がまた恥ずかしい。それって、私の母親の考えそのものだったから。私がもしそういう態度を見せたら、沙奈子ちゃんまで真似してしまうかもしれない。それは嫌。絶対に嫌。優しい彼女が、気に入らない相手に土下座を強要して頭を足蹴にするような姿なんて見たくない。

沙奈子ちゃんがそんな人になってしまうくらいなら、あの来支間って人には謝罪すらしてもらいたくないっていうのも、この時の紛れもない本音なのだった。

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