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こんな時だからこそ
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だけど様子が違ってしまってるのは、沙奈子ちゃんだけじゃなかった。玲那の様子もやっぱりおかしい。まるで思考力を失ってしまったみたいに呆然としてる。
「大丈夫、大丈夫だよ。私はここにいるよ」
そう言って何度も抱き締めた。その度に玲那は頷いてくれる。それでもまだ普通じゃなかった。
私が玲那のことを見れば、彼は沙奈子ちゃんのことを見てくれてた。
「大丈夫、みんな一緒だよ」
そうして、なるべくこれまで通りの生活を送ろうと努めた。みんなで掃除と洗濯をして、沙奈子ちゃんは勉強もして。
片手で床掃除用のワイパーを使う沙奈子ちゃんの姿を見るとまたたまらなくなるけど、私は泣くのを堪えた。泣いていい時間はちゃんと作るから、今はとにかくそれをこなそう。
『泣きたい時には泣いていい』なんてことも言った気がするけど、それはあくまで沙奈子ちゃんや玲那に対して言うことだ。それでなくても私はすぐ感極まって泣いちゃう癖がある。私の場合は、泣きたい時に泣いてばかりだと何もできなくなっちゃうから。
今日はまた、お昼に大希(ひろき)くん達がホットケーキを作りに来る筈だった。こんな時くらい中止にしてもと思いつつ、だけど、こんな時だからこそいつも通りにするのも大事かなと思って、彼と話し合って敢えてそうした。
「沙奈ちゃん大丈夫?、痛くない?」
大希くんと一緒に来た千早(ちはや)ちゃんが驚いた顔で心配そうに訊いてきた。大希くんも、二人の保護者代わりとして来た星谷(ひかりたに)さんも驚いてた。
だけど沙奈子ちゃんは、『大丈夫』と首を横に振るだけだった。だけど彼女は、痛みに対して忍耐強くて、我慢してしまう子なんだ。そういう部分がこんな時にも発揮されてしまうんだろうな。
だからこういう時の沙奈子ちゃんの『大丈夫』は信じちゃいけないと、達さんは言ってた。
「何があったのか、詳しいことをお聞きしてもいいですか?」
星谷さんが、とても高校生とは思えない厳しい表情で彼にそう尋ねてた。そして彼も、普通なら高校生の女の子にそこまで話すことはないんじゃないかってくらいに詳しく話してた。
「それは、十分に損害賠償請求ができる事案ですね。もし、山下さんがそういうことをお考えでしたら、私、いい弁護士を紹介します」
そう申し出てくれたことに対しては彼は「今はまだそこまで考えられない」と首を横に振った。
「分かりました。山下さんがそうおっしゃるのでしたら、それでいいと思います。でも今後、もし、私の力が必要になったらいつでもおっしゃってください。私、ヒロ坊くんの大切な友達を苦しめるような人は許せません…!」
淡々と、でも強い意志を込めてそう言う星谷さんがどういう子なのかが分かるのはもうしばらく後になってからだったけど、彼女のような人に出会えたことそのものが彼の強みなんだなと、後になって実感させられたのだった。
「大丈夫、大丈夫だよ。私はここにいるよ」
そう言って何度も抱き締めた。その度に玲那は頷いてくれる。それでもまだ普通じゃなかった。
私が玲那のことを見れば、彼は沙奈子ちゃんのことを見てくれてた。
「大丈夫、みんな一緒だよ」
そうして、なるべくこれまで通りの生活を送ろうと努めた。みんなで掃除と洗濯をして、沙奈子ちゃんは勉強もして。
片手で床掃除用のワイパーを使う沙奈子ちゃんの姿を見るとまたたまらなくなるけど、私は泣くのを堪えた。泣いていい時間はちゃんと作るから、今はとにかくそれをこなそう。
『泣きたい時には泣いていい』なんてことも言った気がするけど、それはあくまで沙奈子ちゃんや玲那に対して言うことだ。それでなくても私はすぐ感極まって泣いちゃう癖がある。私の場合は、泣きたい時に泣いてばかりだと何もできなくなっちゃうから。
今日はまた、お昼に大希(ひろき)くん達がホットケーキを作りに来る筈だった。こんな時くらい中止にしてもと思いつつ、だけど、こんな時だからこそいつも通りにするのも大事かなと思って、彼と話し合って敢えてそうした。
「沙奈ちゃん大丈夫?、痛くない?」
大希くんと一緒に来た千早(ちはや)ちゃんが驚いた顔で心配そうに訊いてきた。大希くんも、二人の保護者代わりとして来た星谷(ひかりたに)さんも驚いてた。
だけど沙奈子ちゃんは、『大丈夫』と首を横に振るだけだった。だけど彼女は、痛みに対して忍耐強くて、我慢してしまう子なんだ。そういう部分がこんな時にも発揮されてしまうんだろうな。
だからこういう時の沙奈子ちゃんの『大丈夫』は信じちゃいけないと、達さんは言ってた。
「何があったのか、詳しいことをお聞きしてもいいですか?」
星谷さんが、とても高校生とは思えない厳しい表情で彼にそう尋ねてた。そして彼も、普通なら高校生の女の子にそこまで話すことはないんじゃないかってくらいに詳しく話してた。
「それは、十分に損害賠償請求ができる事案ですね。もし、山下さんがそういうことをお考えでしたら、私、いい弁護士を紹介します」
そう申し出てくれたことに対しては彼は「今はまだそこまで考えられない」と首を横に振った。
「分かりました。山下さんがそうおっしゃるのでしたら、それでいいと思います。でも今後、もし、私の力が必要になったらいつでもおっしゃってください。私、ヒロ坊くんの大切な友達を苦しめるような人は許せません…!」
淡々と、でも強い意志を込めてそう言う星谷さんがどういう子なのかが分かるのはもうしばらく後になってからだったけど、彼女のような人に出会えたことそのものが彼の強みなんだなと、後になって実感させられたのだった。
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