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信じられない
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『お姉さんと一緒にちょっとお散歩行きましょう』
知らない人にそんなことを言われて沙奈子ちゃんが喜ぶ筈がなかった。でも、わざわざそんなことを言うというのは、きっと彼女にはあまり聞かせたくない話なんだろうなっていうのはピンときた。
だから彼も、不安そうに見詰める彼女に対して、
「ごめん、そのお姉さんと一緒にちょっとお散歩行っててくれるかな。大丈夫。お話の間だけだから」
と言うしかなかったんだというのは分かってしまった。
だけど、彼にそう言われた時の沙奈子ちゃんの表情を私は一生忘れることができないかもしれない。血の気が引いて真っ白になって、感情っていうものを失ってしまったみたいな顔っていうのかな……。
でも私も、何を言っていいのか分からなくて固まってしまってたと思う。
玲那に至っては、沙奈子ちゃんと同じくらいに血の気失って感情のない顔になってた。
「……」
言葉も出せないままに助けを求めるような目を向けた沙奈子ちゃんが連れていかれて大人だけになった時、来支間っていう人が、彼を睨み付けるようにして見た。その口から発せられた言葉に、私達は耳を疑うしかできなかった。
「実は、児童相談所の方に、通報がありまして…。山下さん、あなたが沙奈子さんに対して虐待を行っているという通報です」
『……え?』
彼はもちろん私まで何を言われたのかすぐには理解できなくて、数瞬遅れてようやくその意味が頭に届いた。呆然と来支間さんを見詰めるしかできない彼に代わって、私の口が勝手に動く。
「そんな!?、山下さんはそんなことしません!。してません!」
そうだ。彼はそんなことしてない。沙奈子ちゃんの様子を見ればそんな訳ないのが分かる。虐待されてる子があんなに優しくて穏やかな顔で彼を見ることができる訳ない…!。
なのに、来支間さんはぞっとするような冷たい視線を私に向けて言った。
「あなたは?。山下さんとお付き合いをされてる方ですか?」
まるで見下すような感じの問い掛けに、私の体の中で何かがガリガリと音を立てたような気がした。殆ど無意識に眉間に力が入って睨み返してしまう。
「ええ、そうです」
はっきりと、まるで宣誓するように背筋を伸ばして言わせてもらった。そうだ。昨日まではあやふやだったけど、私はもうはっきり言える。
『私は、山下達さんとお付き合いさせていただいてます』
って。
だけどその来支間っていう人はそんな私の言葉を聞き流すようにして今度は玲那に視線を向けた。
「じゃあ、そちらの女性は?」
それはもう、露骨に隠す気もない侮蔑の表情と声色だった。完全に玲那を嘲っていた。私の顔がカーっと熱を帯びてくるのが自分でも分かった。それでも自分を抑えて冷静に、
「彼女は私の友人で…」
と私が言いかけた瞬間、来支間とかいう人が確かに、「ふっ」と鼻で笑ったのが分かった。嘲笑だった。紛れもなく玲那のことを嘲笑ってたんだ。
知らない人にそんなことを言われて沙奈子ちゃんが喜ぶ筈がなかった。でも、わざわざそんなことを言うというのは、きっと彼女にはあまり聞かせたくない話なんだろうなっていうのはピンときた。
だから彼も、不安そうに見詰める彼女に対して、
「ごめん、そのお姉さんと一緒にちょっとお散歩行っててくれるかな。大丈夫。お話の間だけだから」
と言うしかなかったんだというのは分かってしまった。
だけど、彼にそう言われた時の沙奈子ちゃんの表情を私は一生忘れることができないかもしれない。血の気が引いて真っ白になって、感情っていうものを失ってしまったみたいな顔っていうのかな……。
でも私も、何を言っていいのか分からなくて固まってしまってたと思う。
玲那に至っては、沙奈子ちゃんと同じくらいに血の気失って感情のない顔になってた。
「……」
言葉も出せないままに助けを求めるような目を向けた沙奈子ちゃんが連れていかれて大人だけになった時、来支間っていう人が、彼を睨み付けるようにして見た。その口から発せられた言葉に、私達は耳を疑うしかできなかった。
「実は、児童相談所の方に、通報がありまして…。山下さん、あなたが沙奈子さんに対して虐待を行っているという通報です」
『……え?』
彼はもちろん私まで何を言われたのかすぐには理解できなくて、数瞬遅れてようやくその意味が頭に届いた。呆然と来支間さんを見詰めるしかできない彼に代わって、私の口が勝手に動く。
「そんな!?、山下さんはそんなことしません!。してません!」
そうだ。彼はそんなことしてない。沙奈子ちゃんの様子を見ればそんな訳ないのが分かる。虐待されてる子があんなに優しくて穏やかな顔で彼を見ることができる訳ない…!。
なのに、来支間さんはぞっとするような冷たい視線を私に向けて言った。
「あなたは?。山下さんとお付き合いをされてる方ですか?」
まるで見下すような感じの問い掛けに、私の体の中で何かがガリガリと音を立てたような気がした。殆ど無意識に眉間に力が入って睨み返してしまう。
「ええ、そうです」
はっきりと、まるで宣誓するように背筋を伸ばして言わせてもらった。そうだ。昨日まではあやふやだったけど、私はもうはっきり言える。
『私は、山下達さんとお付き合いさせていただいてます』
って。
だけどその来支間っていう人はそんな私の言葉を聞き流すようにして今度は玲那に視線を向けた。
「じゃあ、そちらの女性は?」
それはもう、露骨に隠す気もない侮蔑の表情と声色だった。完全に玲那を嘲っていた。私の顔がカーっと熱を帯びてくるのが自分でも分かった。それでも自分を抑えて冷静に、
「彼女は私の友人で…」
と私が言いかけた瞬間、来支間とかいう人が確かに、「ふっ」と鼻で笑ったのが分かった。嘲笑だった。紛れもなく玲那のことを嘲笑ってたんだ。
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