絵里奈の独白

京衛武百十

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師走の嵐

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私達は幸せだ。

この時の私は、自信をもってそう言えたと思う。

でも、人生っていうのは良いことばかりが続く訳じゃないってことを私は骨身に染みて知っていた筈なのに、幸せ過ぎて忘れていたのかもしれない……。



十二月に入り、世間では師走と言われる時期になった土曜日の朝。

その日は昨夜からの強い雨が続いてて、なんだかすごく暗い日だった。

だけど私達にはそんなの関係なくて、四人で一緒にいられればそれだけで楽しくて、部屋の中はとても明るい空気に満たされていた。

みんなで朝食を食べて掃除して洗濯してって、いつも通りの始まりだった。雨の中の買い物だって、みんなで一緒に行けばきっと楽しい。

なのに、<それ>は本当に、まったく前触れもなく、突然に、そして容赦なく私達の前に現れたんだ。



沙奈子ちゃんの午後の勉強をしてた時、不意に玄関のチャイムが鳴らされた。

『誰だろう…? 沙奈子ちゃんの友達かな…?』

私がそんなことを考えていた前で、彼がドアスコープを覗き込み、それからドアチェーンを掛けたのを見て、『セールとかかな?』と考えを改めていた。

沙奈子ちゃんも何気なく玄関の方にふり返り、玲那もハッという感じで視線を向けた。沙奈子ちゃんは人の感情とか緊張とかに敏感な子だった。いたるさんが警戒したのを察してしまったのかもしれない。玲那も、沙奈子ちゃんが感じたものを察したんだろうか。

彼が僅かに開けたドアの隙間から声が届いてきた。

「お休みのところ申し訳ありません。児童相談所の相談員の来支間きしまと申します。実は、沙奈子さんのことでお話が…」

その固く冷たい感じの声に、沙奈子ちゃんと玲那がさらに緊張したのが分かる。

「……どうぞ…」

それでも、いたるさんはドアチェーンを外し、ドアを開け、玄関前に立っていた人を迎え入れた。

ぴっちりとスーツを纏った、彼とそれほど年齢が変わらない感じの生真面目そうな男性と、私や玲那と同年代くらいのスーツ姿の女性の二人連れだった。首からは名札が下げられていて、そこには<児童相談所相談員>の文字と名前が見えた。

その二人は部屋に上がりいたるさんが出した座布団は遠慮して畳に直に正座して、私達と向かい合った。

それから、<来支間きしま>と名乗った男性が連れの女性に目配せをすると、女性が、沙奈子ちゃんに向かって微笑みかけるように言ったのだった。

「沙奈子ちゃん、お父さんはちょっと大事なお話があるから、お姉さんと一緒にちょっとお散歩行きましょう」

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