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一方的に始末されるわけには

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『イティラ、こいつを盾にして逃げるぞ……!』

ウルイのその言葉を耳にしたイティラは、

「え……?」

と思わず聞き返していた。

彼女は彼女でどうやって逃げるかを考えていて、そちらの方で手一杯で、王子の言葉の意味を察していなかったのである。

しかも、カシィフスとの戦いが終わったことで気が抜けてしまったのか、見る見る元の、

<鼠色の毛皮に虎の模様が浮き上がっただけの半端者の獣人>

の姿に戻っていってしまう。

安全になったと思ったわけではないものの、もう大丈夫と思ったわけではないものの、やはりあれだけの強大な存在と戦っていた時の緊張感を維持することはできなかったのだろう。

この辺りもまだ、イティラの未熟さということなのかもしれない。ウルイもそれは感じたものの、若い彼女が未熟なのは彼女の所為じゃないのだから、彼女を責める気にはなれなかった。なにより、今のこの状況を招いてしまったのは自分だ。責めるべきはイティラの未熟さじゃない。

「イティラ! 王子は俺達も始末するつもりだ! だからこいつを盾にして矢を防いで逃げるぞ……!」

ウルイが改めてそう告げたことで、

「え、あ…うん……!」

イティラもようやく彼の意図を察することができた。

なのに、

「……ウルイ…! 変化へんげできない……!」

再びあの<白虎>に変化しようとしたのに、できなかった。と言うか、どうやって変化したのかが分からない。あの時はとにかく必死で、自分でも気が付いたらそうなっていただけで。

その時、

「クヴォルオ! 我が王国に仇なす獣人と、それに与する愚かな者は根絶やしにせねばならん!!」

王子が告げた。

ウルイとイティラに対する事実上の処刑宣告だった。

なるほど確かに<国>にとってはそうするのが一番手っ取り早いかもしれないが、一番確実に問題を片付けられるかもしれないが、正直、

『こいつの気持ちが分かった気がする……!』

イティラもウルイも、カシィフスの亡骸を見ながらそう思ってしまった。

こっちとしても、ただ一方的に始末されるわけにはいかない。自分達の命を脅かすというのなら、生きるために戦うことを躊躇いはしない。

あの<白虎>に変化できないということは、このクヴォルオの体を担いで走るのは簡単じゃないだろうが、とにかく今はそれしか方法がない。

なのに、そう覚悟を決めたイティラとウルイが動くよりも早く、クヴォルオが動いていた。

「!?」

手にした短刀を彼に向ける暇すらなかった。一瞬で腕を決められ丸太のような腕で首を絞められ、ウルイはごつごつとした石だらけの地面へと押し付けられる。

「動くな…! 首をへし折るぞ……!!」

ウルイとイティラにだけ辛うじて聞き取れる声で、クヴォルオは命じたのだった。

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