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悪い奴じゃないんだ
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『クヴォルオ様、勝手に鎧を脱ぐのは……』
兵士のその言葉である程度の事情を察することができたイティラは、落ち着いて話に聞き耳を立てることができた。
また、彼女が聞いているであろうことを想定して、ウルイは聞き役に徹する。なるべく情報を引き出そうと思ったのだ。
そんな彼の前で、<クヴォルオ>と呼ばれた強力の男が、声を掛けてきた兵士に向かって、
「そうだな。だから勝手に鎧を脱いだのは私の独断だ。ゆえに責は全て私にある。お前達は私を止められなかっただけだ」
言い含めるように告げる。
崖をようやく降りてきて集まった兵士達は困惑した様子だったものの、クヴォルオは、
「とにかくお前達には何の責任もない。私が勝手にしたことなんだ」
やはりきっぱりと言ってのけた。
その様子から、このクヴォルオというのが兵士達より上の立場であることが分かる。ウルイもイティラも人間の組織には詳しくないものの、<隊長>とか、そういう役回りなのだろうという程度のことは分かった。
するとクヴォルオは、転落した兵士の応急手当は他の兵士達に任せ、ウルイに向き直り、
「名乗るのが遅れてしまったな。私は、クヴォルオ・マヌバゾディ。サバルニオス王国王子、エンヴェイト様の近衛騎士筆頭だ。この度の貴君の働きに改めて心より感謝する」
改めて頭を下げた。
そんな、クヴォルオの口ぶりや態度に、イティラも、
『なんだ……悪い奴じゃないんだ……』
と素直に思えた。
だがその時、
「!?」
新たな気配。ガチャガチャと鉄の鎧が立てる、やや耳障りな音。人間の軍隊はいくつかの集団に分かれているのは分かっていた。今回、兵士の一人が沢に転落したのは、その先頭の集団だった。そこに、クヴォルオが少し遅れて駆け付けたのだ。そしてさらに、別の集団が追いついてきたのだろう。
しかもイティラは、その中に、一際、耳障りな音を立てる鎧があることに気付いた。他の鎧にはない、細かい部品がたくさん付いていて、それが甲高い音を不規則に出して、キンキン頭に響くのだ。
そんな不愉快な鎧をまとった何者かが、他の兵士を押し退けて崖に近付くのが分かった。そうして、
「クヴォルオ! 貴様、誰の許しを得て鎧を脱いだ!? 我ら誉れ高きサバルニオス王国軍の<常在戦場の心得>を愚弄するか!?」
崖下に向かって尊大に声を発する。
イティラにさえ、一目で<この場で一番偉い人間>だと察せられた。
けれど同時に、
『なんか、こいつ嫌い……』
とも感じてしまう。ものすごく偉そうで相手を見下して蔑んでいる態度が、今はもうほとんど忘却のかなたになりつつも彼女の心に棘のように刺さっている、両親や兄姉の姿を呼び起こすからだった。
兵士のその言葉である程度の事情を察することができたイティラは、落ち着いて話に聞き耳を立てることができた。
また、彼女が聞いているであろうことを想定して、ウルイは聞き役に徹する。なるべく情報を引き出そうと思ったのだ。
そんな彼の前で、<クヴォルオ>と呼ばれた強力の男が、声を掛けてきた兵士に向かって、
「そうだな。だから勝手に鎧を脱いだのは私の独断だ。ゆえに責は全て私にある。お前達は私を止められなかっただけだ」
言い含めるように告げる。
崖をようやく降りてきて集まった兵士達は困惑した様子だったものの、クヴォルオは、
「とにかくお前達には何の責任もない。私が勝手にしたことなんだ」
やはりきっぱりと言ってのけた。
その様子から、このクヴォルオというのが兵士達より上の立場であることが分かる。ウルイもイティラも人間の組織には詳しくないものの、<隊長>とか、そういう役回りなのだろうという程度のことは分かった。
するとクヴォルオは、転落した兵士の応急手当は他の兵士達に任せ、ウルイに向き直り、
「名乗るのが遅れてしまったな。私は、クヴォルオ・マヌバゾディ。サバルニオス王国王子、エンヴェイト様の近衛騎士筆頭だ。この度の貴君の働きに改めて心より感謝する」
改めて頭を下げた。
そんな、クヴォルオの口ぶりや態度に、イティラも、
『なんだ……悪い奴じゃないんだ……』
と素直に思えた。
だがその時、
「!?」
新たな気配。ガチャガチャと鉄の鎧が立てる、やや耳障りな音。人間の軍隊はいくつかの集団に分かれているのは分かっていた。今回、兵士の一人が沢に転落したのは、その先頭の集団だった。そこに、クヴォルオが少し遅れて駆け付けたのだ。そしてさらに、別の集団が追いついてきたのだろう。
しかもイティラは、その中に、一際、耳障りな音を立てる鎧があることに気付いた。他の鎧にはない、細かい部品がたくさん付いていて、それが甲高い音を不規則に出して、キンキン頭に響くのだ。
そんな不愉快な鎧をまとった何者かが、他の兵士を押し退けて崖に近付くのが分かった。そうして、
「クヴォルオ! 貴様、誰の許しを得て鎧を脱いだ!? 我ら誉れ高きサバルニオス王国軍の<常在戦場の心得>を愚弄するか!?」
崖下に向かって尊大に声を発する。
イティラにさえ、一目で<この場で一番偉い人間>だと察せられた。
けれど同時に、
『なんか、こいつ嫌い……』
とも感じてしまう。ものすごく偉そうで相手を見下して蔑んでいる態度が、今はもうほとんど忘却のかなたになりつつも彼女の心に棘のように刺さっている、両親や兄姉の姿を呼び起こすからだった。
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