あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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人間の軍隊

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何十人もの人間。馬。鉄同士がぶつかり合いこすれあう音。

それから連想されるもの。

『人間の軍隊か……』

ウルイもそう思ったが、イティラも完全にそれを想起している。しかもキトゥハを打ち据えたという<王子>がいるかもしれないという形で。

さりとて、実際にそうなのかは、確認してみないと分からない。

係わり合いにはなりたくなかったが、向こうがこれからどのように動くか予測するためにも、まずは状況を確認する必要があるだろう。

ウルイは冷静にそう考え、

「イティラ。彼らがどう動くか確かめるためにまずは様子を窺う。早まった真似はしないと約束できるな……?」

彼女に問い掛けた。するとイティラも、

「はっきり言って腹は立ってるけど、ウルイの言う通りにするよ……」

しっかりと明言してくれた。だからウルイも彼女を信じる。

そうして二人は、人間の気配のする方へと急いだ。

それは、谷間を流れる沢が望める崖の上だった。だが、何か様子がおかしい。やけに慌ただしいのだ。

と、

「おい! 気をしっかりと持てよ! 今助けてやるからな!!」

崖の下に向かって叫んでいる者もいる。

『誰か崖から落ちたのか……』

鉄の鎧をまとってこんな山道を歩けば、なるほど足を滑らせて崖から転落する者もいておかしくないだろう。

戦争をしにいくわけでもないだろうに、これを命じた者は何を考えているのか。

「……」

「……」

人間相手なら気取られる心配はない距離だとは思うものの、念のために<符丁>によって、

『俺達も崖のところまで行く』

『分かった』

とやり取りをし、ウルイとイティラも崖から下を覗き込んでみた。すると案の定、鎧をまとった人間が一人、沢の中に倒れていた。しかも、完全に水没はしていないものの起き上がることができないらしく、川の水がバシャバシャと顔にかかって、どうやらまともに息もできないようだ。このままでは溺れてしまうかもしれない。

人間達も崖を降りて助けに行こうとしているものの、何を考えているのか鎧をまとったままで降りようとしている。これでは時間もかかるし、何よりまた転落する者がでるかもしれない。

そのあまりの手際の悪さに、

「イティラは、ここで待っててくれ……!」

そう言ってウルイがするすると崖を下り始めた。イティラやキトゥハに比べればさすがに無様ではあっても、山を縦横無尽に移動し狩りをしているだけあって実に手馴れた危なげない動きだった。

だから、鎧をまとった者達よりずっと後に下り始めたにも拘らず、遥かに早く転落した者のもとに駆けつけ、まずは頭を持ち上げて呼吸を確保させた。

「ごっ…! ごほっ! ごほほっっ!!」

何度もむせていたものの、どうやら間に合ったようであった。

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