あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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詮無い話

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理不尽な人間の行いに憤り、報復を誓うというのも確かに在り方の一つなのだろう。

しかし、キトゥハはそれを良しとしなかった。

彼には分かるのだ。人間を恨み憎みやられたことをやり返したとしても、問題は解決しないことを。

キトゥハを鉄の棒で打ち据えた<人間>は、この国の王子だと名乗っていたらしい。

「私は、次の王位を任される者として、現王よりも<悪>に対しては厳しく望むつもりだ! これはそのための行いである!!」

などと口上を述べていたのだとか。

十数人の兵士を引き連れ、リトゥアと、今は部屋の隅で寝ているリトゥアの妹の<マァニハ>を捕えた状態で高圧的に詰問し、しかも無抵抗かつ無関係だったキトゥハを鉄の棒で打ち据えるような、むしろ<傍若無人>としか言いようのない振る舞いを見せる者が、

『<悪>に対しては厳しく望む』

など、何の冗談かとも思う。

それが、<正しき者>の姿なのかと。

実は、以前の家の中が片付いていたのは綺麗に片付けた後だったというだけで、実際のところ、件の王子が来た時には、兵士達が家探しをして滅茶苦茶に引っくり返されたりもしていたのだ。

それでもなお、キトゥハは人間と敵対する意図はなかった。何故ならば、本当に何の情報もないということで詫びの一言もなく立ち去ろうとした王子の代わりに、その従者として傍らに付き添っていた騎士らしき人物が、

「この度は済まなかった。王子は自らの務めを果たそうとして、やや気負っておられるのだ。後日、見舞いを送ろう」

キトゥハに耳打ちしたのだと言う。

その騎士らしき人物は非常にわきまえた様子であり、<王子の勇み足>であったことが窺え、王子一人を見て、

『人間とは相容れない!!』

と結論を出すことはできないことも知っているからである。

なにしろ、リトゥアの父親もれっきとした人間。人間と敵対するということは、リトゥアの父親も<敵の一人>として見做さなければならなくなる。

<人間と敵対しようとしている獣人>とて、一部の無駄に血の気の多い者達だけだ。

獣人が必ずしも人間を敵視しているわけではないのと同じく、人間も全員が全員、獣人を敵視しているわけではないというのは、れっきとした事実。

それに目を瞑って人間と敵対しようなどとは、物の道理をわきまえている者のすることではない。

ただ、件の王子のような者が王の座に就くとなれば、いささか息苦しい治世になるであろうことも事実だろうが。

さりとて、何の苦労もない、居心地いいだけの時代というのも、人類の歴史上ほとんどなかっただろうから、それを嘆いても詮無い話ではある。

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