あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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違和感

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などと、イティラとウルイ、それぞれにいろいろと<想い>を抱きつつ先を急ぐと、前回よりもかなりゆっくり目に家を出たもののまだ十分に日が高いうちにキトゥハの家が見える場所にまで辿り着いた。

ただ……

「何か、おかしい……」

キトゥハが住んでいるはずの家を見たウルイが、そんなことを口にした。何らかの違和感を覚えたようなのだ。

「どういうこと……?」

イティラも少し緊張しながら尋ねる。

「人が住んでる気配がない……」

それが、ウルイの印象だった。キトゥハは必ずしも<綺麗好き>と言うほどではないものの、それでも家の周囲についてはそれなりに片付けていたはずだった。なのに、今は、遠目で見ても雑草が生い茂っているのが分かる。

『何年も』というほどではないにせよ、少なくとも数ヶ月は何も手を付けていない感じだろうか。

娘が孫を連れて帰ってきているのだから、それこそ孫のためにも手入れくらいはしそうだというのに。

「もしかすると、孫のために新しい家に移ったのかもしれないが……」

あくまで希望的観測としてそんなことも口にする。

「とにかく、行ってみよう……!」

イティラは不安を振り払うかのようにしてウルイを促した。

「そうだな……」

ウルイも、こんなところで気を揉んでいても仕方ないのも分かるので、イティラの言うようにまずは確認するべく行ってみることにした。

不測の事態に備えるために、神経も研ぎ澄ませながら。

慎重かつなるべく急いで谷を降りて川を超え、斜面を上り始める。しかしその斜面も、以前はキトゥハが行き来していることで獣道のようになっていたのが、すっかり下草に埋もれていた。

やはり、使われていないようだ。

そして家に辿り着くと、<印象>は<確信>へと変わった。明らかに誰かが住んでいるような雰囲気がまったくない、雑草に埋もれ始めた<廃屋>がそこにあっただけだ。庇の一部が垂れ下がってきてさえいる。

「キトゥハ…!」

ここまで近付いても姿すら見せない時点で察していたものの、それでも一応、声は掛けてみる。

当然のように返事はない。

短刀を構えつつウルイが扉に手を掛ける。

が、すんなりとは開かない。しかも、メリメリと音がする。ウルイの家の扉よりも。

この時、イティラも耳と鼻を研ぎ澄ませ、中の気配を探っていた。

なのに、伝わってくるのは、埃の臭いと静けさだけだ。

腐敗臭などはしないので中で誰かが死んでいたりというのはないと思うものの、少なくとも誰かが住んでいるような気配がないのも確かなのだった。

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