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いい加減、私から

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山を越え谷を渡り、イティラとウルイはキトゥハの家を目指した。前回は朝早くに出てようやく日暮れ前に着いたが、今度はむしろウルイの方がイティラに気遣われて歩かないといけないくらいに、立場が逆転していた。

いかに獣人としては半端者と言っても、さすがに人間よりはこういう部分の能力は高い。

『これで考えても、イティラはもう、力の面では大人だな……』

前回との違いを実感しつつ、ウルイは彼女を見詰めていた。なるほど腰の辺りもしっかりと張ってきて、女性としても成熟しつつあるのだろう。

ただ、全体のラインを見ると、子を産むには今しばらく待った方がいいような気もしてくるが。

『子がいる女の体つきとは、さすがに違う感じなのはまだあるのか……』

とも思う。

こういう点では、ウルイは本当に冷静だった。衝動に駆られて目先のことしか見えないということがない。

もっとも、以前にも触れたように、それは極度の人間不信が原因であろうという皮肉なものでもあるのだが。加えて、ウルイが見たことのある女性の体は、やや過剰に淫猥なタイプのそれだったこともあり、そもそもの<適齢期の女性>のとは違っていることも事実ではある。

とは言え、彼のその辺りの感覚は、こと、

『イティラを大切にする』

という点に限れば、むしろ非常に好ましいものであることもまた事実。

彼女を傷付けないように気遣いができるのだから。

そんなウルイよりも、逆にイティラの方が自分を抑えるのが難しくなってさえいるだろう。

実は、どうしてももやもやしてしまって寝付けず、自分で自分を慰めたりということさえ、ここ数ヶ月の間に始まっていたのだ。

当然、完全に熟睡しないウルイはそれに気付いていたものの、

『まあ、年頃だしな……』

と考えて敢えて気付かないふりをしていた。

ただし、イティラも、ウルイが気付いていることも察している。つまり、彼女の方から『誘って』いるのだとも言えるだろう。

にも拘わらずこの<朴念仁>は、まったくその誘いに乗ってこない。

イティラが、

『もういい加減、私を大人と認めて……!』

と迫ったのは、これだけ自分の方の受け入れ態勢が整っているのに、それをアピールしているのに、まるで効果がないことに痺れを切らしたからというのもある。

ウルイが自分を大切に想ってくれているからこそ軽はずみなことをしないのは分かっている。分かっているものの、ここまで完全無視というのもいくらなんでも自尊心という部分に障ってくる。

待つにしたっていつまで待てばいいのかまるで分らないのでは、折り合いのつけようもない。

『いい加減、私から襲うぞ、もう……!』

そんなことも思っていたのだった。

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