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その隙を

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ウルイが出した<符丁>。それは、

『俺が囮になる。だからその隙を狙え』

というものだった。

見ればウルイは、弓も矢も手にしていない。丸腰だ。短刀さえ手にしていないのだ。

そのままで、狼達と孤狼とが入り乱れて戦っているところに近付いていく。

普通に考えればただの<自殺行為>に過ぎない。なのにウルイの動きに躊躇いはない。

むしろイティラの方が泣きそうな表情になっていた。

すると、丸腰のウルイが近付いていることに、狼達のボスが先に気付いて視線を向けた。それを察した孤狼もそちらに視線を向ける。

瞬間、弾かれたように孤狼が奔った。ウルイ目掛けて。

この中で最も確実に倒せる者から先に倒そうということなのだろう。

丸腰の人間を殺すなど、小鹿を仕留めるよりも容易いことを知っている動きだった。

その孤狼を、イティラが追う。けれど、追い付けない。

「ウルイ…っ!」

ますます泣きそうな表情で、イティラは必死に走った。その横をやはり隙を狙おうとしたのだろう、狼達のボスも奔る。

けれど、孤狼がウルイに襲い掛かる方が早かった。

「ヴォォアッ!!」

咆哮を上げながら、大きく口を開き、ナイフのような鋭い牙をウルイの首へと突き立てようとする。

が、

「!?」

孤狼の口に入ってきたのは、肉の感触ではなかった。それとは違う、冷たく固く鋭く痛い<何か>。

やじりだった。鏃が孤狼の口の中から頬を突き破って覗いている。

「アアアァアガアッッ!!」

孤狼の牙はウルイの首をかすめただけで、そのまま地面へと降り立つ。降り立ちながら、狂ったように頭を振り回す。矢を抜こうとしているのだろう。

そしてそこに、短刀を構えたイティラと、狼達のボスが。

「ギャオアッッ!!」

矢を口に差したまま、孤狼はイティラと狼達のボスを迎え撃つ。しかしさすがにその状態で同時に迎え撃つのは無理があったようだ。

イティラの短刀は躱したものの、

「ギイィッッ!!」

<痛み>そのものを音声にしたかのような声。

孤狼の首に、狼達のボスが喰らい付いていたのだ。

この上なく完璧と思える形で。

なのに―――――

なのに、孤狼は、その場で自身の体を猛烈に回転させ始めた。ウルイの矢を口に刺したまま。狼達のボスを首に喰らい付かせたまま。

まったくもって尋常じゃない。

そうして何回転かすると、矢が折れて、しかも鏃が地面に引っかかったか何かして、抜け落ちる。

さらには、狼達のボスも、たまらず牙を離してしまった。

瞬間、孤狼は体を起こして距離を取った。

しかし、そんな孤狼の視界に捉えられたもの。それは、いつの間にか弓と矢を手にして構えたウルイの姿。

と、頭で考えるより先に体が反応していた。

咄嗟に頭を下げて、横っ飛びする。

その孤狼の左の耳を、ウルイの矢が切り裂く。

頭を下げなければ、矢は、確実に孤狼の左目を貫いていただろう。

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