あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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熱意の空回り

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ウルイが言ったように、彼はもうすでにイティラのことを頼りにしている。助けられている。彼女の張り切りは、若い頃にはありがちな、

<熱意の空回り>

だったのだろう。

それでも、これまたウルイが言ったように、自身を高める努力をすること自体は無駄にはならない。だから今後も、イティラは狩りの腕を磨く努力を続けることとなった。

その一方で、また気になることが増えてしまった。あの<獣人の青年>に続いて、<銀色の孤狼>のことだ。このまま別のところに行ってくれれば助かるが、再び遭遇すると厄介だ。

しかも、この辺りを縄張りとしている狼達にとっても好ましくない存在だろう。

「狼達は大丈夫かな」

夜、家で食事を摂りながらイティラがウルイに話しかける。この辺りを縄張りとしている狼達のことを心配しているのだ。

決して馴れ合うことはないものの、基本的には<隣人>として望ましい距離感を保てていると思う。それが掻き乱されるようなことがあってはいろいろと困る。

だからウルイも、

「もし、あの孤狼と狼達が衝突するようなことがあれば、俺としては狼達の側に付こうと思う……もちろん、こちらから余計なお節介はしないつもりだが、たまたまその場に居合わせたりした時には、な」

と告げる。イティラと認識のすり合わせをしておきたかったのだ。

「うん。分かった。私も勝手なことはしないよ。ウルイに言われた通りにやる」

イティラはちゃんとわきまえていた。ここで自分の力を鼓舞しようとして余計なことをして厄介事を増やそうとは思わなかった。

そんなことをしなくても、もうすでにウルイは自分のことを認めてくれているのだから。その実感が得られたのだから、焦る必要もない。

ウルイは本当に、認めるべきところは認めてくれる。だからこそイティラも落ち着いていられた。少々気が利かないところがあったって、それがじれったくてつい拗ねてしまうことがあったって、自分だってウルイの期待してる通りには何もかもできてるわけじゃないのも分かっている。

だから、『お互い様』だ。

お互い様と思える関係が構築できていた。

そう思えれば、些細なことをいつまでも気にする必要もなくなる。今の関係が心地好いと思える。

ただもうちょっと、こう、幼かった頃のような<甘え方>じゃなく、その、お互いに年齢相応の<触れ合い方>というものができればとは思ってしまうのだ。

とは言え、それを言うには彼女がまだ<子供>であることもまた事実。

こればっかりは努力しても時間が早く進むわけではないので、待つより他はない。

そうして、二人の夜は穏やかに更けていったのだった。

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