あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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認識の更新

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あの<獣人の青年>がいずれまた姿を現すかもしれないものの、イティラとウルイの暮らしそのものは大きな変化はなかった。

ただ、イティラがさらに自分自身の中にある<力>を意識して磨くようにしていたというのはある。

すると、彼女の表情が変わってきた。それまでの、力強さもありながら同時にどこかあどけない<子供らしさ>を強く感じさせるものだったのが、きりりと洗練されたものになっていたのだ。

「……!」

何気なく彼女を見たウルイがハッとしてしまう程度には。

ただただ可愛らしいだけの子供ではなくなり、自分の足で立ち自分の力で自らを生かすだけじゃなく、自分の大切な誰かを守ろうとする<大人>に変化していったのだと思われる。

そしてそれは、ある種の<美しさ>でもあっただろう。

「…? 何?」

ウルイが自分を見詰めていることに気付いて、イティラが問い掛ける。

「あ、いや、なんでもない。ただ、大きくなったなと思ってな……」

そう返したウルイの表情に、今度はイティラがハッとなる。

どこか照れくさそうにしている表情に見えたのだ。

『え? まさか、照れてる……?』

これまでほとんど見せたことのないそんな彼の姿に気付いて、思わず頬が緩んでしまった。でもそうなると途端に子供っぽい顔付きになってしまう。だからまだまだあどけなさが抜けたわけではなかった。あくまでこれまで以上に成長しているというだけだろう。

けれど、彼女の中で改めて、

<自らの力で生きる者>

としての自覚が形になりつつあることもまた、間違いない。

ウルイに助けられるだけじゃない、導かれるだけじゃない、彼を助け、時には導くことさえできる<対等な存在>に、彼女はなろうとしている。

そしてそれは、他人からは<親子>のようにも見えたであろう二人の関係自体が変化しつつあることも表していた。

無責任な赤の他人から何を言われようとも揺るがない<選択>ができるようなそれに。

とは言え、今はまだその端緒に付いただけでしかないこともまた事実。

ウルイから見れば彼女が<子供>なのも、やっぱり事実なのだ。

だから『そういう目』でイティラを見ることもない。あくまで<幼い同居人>でしかない。

それを覆すにはまだ時間は必要だった。

ここでは、一般的には十五前後で<成人>として認められることになる。せめてその辺りまでは成長する必要もあるだろう。

それに何より、これまでずっと<幼い同居人>としてイティラを見てきたウルイの認識が更新されるにも時間が必要だ。

焦ることはない。焦ったところで時間が早く進むことはないのだから。

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