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今こそ我ら獣人は
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『おいお前! 俺の子を産め!』
突然現れて脈絡もなくそのようなことを口にする見知らぬ青年に対し、イティラは、
『なんなのなんなのなんなのこいつっっ!?』
頭がおかしくなりそうなほどに苛立った。ウルイやキトゥハ相手でならできる態度がまったくできない。髪の毛の先ほども敬えない。
それは<こいつ>が、他人を敬うような者ではなかったからだろう。徹底的に他者を見下し、蔑んでいるのが分かってしまうから、イティラの方も反発してしまう。
「ふざけるな! 誰がお前なんかと!!」
だから普段は口にしない言葉が出てしまう。幼い頃に耳にした記憶がかすかに残っている言葉だ。
しかし青年は、「やれやれ」と頭を振りながら言う。
「これだから田舎者は…! 我々獣人が今、どれほどの危機にあるか、分からんのか? 人間共の横暴により尊厳を踏みにじられ、まさに根絶やしにされようとしているのだ! 今こそ我ら獣人は互いに力を結集し、愚かで醜悪な人間共に立ち向かわなけばいけないのだ! お前のようなものを知らん半端者でも、獣人には違いない。優れた血を持つ俺の子を産み、我ら獣人の兵士を生み出す役目を果たせるのだ。ありがたく思え!」
一気にまくしたてた青年だったが、イティラには何を言っているのか理解できなかった。言葉の意味が、ではなく、この青年の正気が疑わしくて、意図するところを理解することを彼女の脳が拒んでいるのだろう。
『こんな奴、相手してちゃダメだ……!』
彼女はほとんど本能的にそう考え、その場を離れることを決意した。じりじりと下がりつつ、逃げるための経路を探る。
できれば<家>にはついてこられたくなかった。沢からは斜面を上りきってすぐのところにあるので、探されたら簡単に見付かってしまうかもしれないものの、それでもそのまま連れて戻りたくはない。
と、ふとイティラの頭にキトゥハの姿がよぎる。
『そう言えば、西の獣人の集落が人間に滅ぼされたって言ってたな……人間の王族に歯向かう奴を匿ってたとかどうかで……
まさかこいつが……?』
彼女の推測はまさに大正解だった。この青年こそ、人間の王族、いや、人間の世界そのものに反旗を翻して獣人の世界を作り出そうとしている者……正確にはそれを目指す<テロリスト>の生き残りだったのである。
『ヤバい…! もしそうだとしたらこいつに関わったら人間とまできっと揉める……冗談じゃない……!』
イティラの望みは、ウルイと番って幸せに生きていくこと。
<人間の世界>とか<獣人の世界>とか、そんなものはそれこそどうでもよかったのだった。
突然現れて脈絡もなくそのようなことを口にする見知らぬ青年に対し、イティラは、
『なんなのなんなのなんなのこいつっっ!?』
頭がおかしくなりそうなほどに苛立った。ウルイやキトゥハ相手でならできる態度がまったくできない。髪の毛の先ほども敬えない。
それは<こいつ>が、他人を敬うような者ではなかったからだろう。徹底的に他者を見下し、蔑んでいるのが分かってしまうから、イティラの方も反発してしまう。
「ふざけるな! 誰がお前なんかと!!」
だから普段は口にしない言葉が出てしまう。幼い頃に耳にした記憶がかすかに残っている言葉だ。
しかし青年は、「やれやれ」と頭を振りながら言う。
「これだから田舎者は…! 我々獣人が今、どれほどの危機にあるか、分からんのか? 人間共の横暴により尊厳を踏みにじられ、まさに根絶やしにされようとしているのだ! 今こそ我ら獣人は互いに力を結集し、愚かで醜悪な人間共に立ち向かわなけばいけないのだ! お前のようなものを知らん半端者でも、獣人には違いない。優れた血を持つ俺の子を産み、我ら獣人の兵士を生み出す役目を果たせるのだ。ありがたく思え!」
一気にまくしたてた青年だったが、イティラには何を言っているのか理解できなかった。言葉の意味が、ではなく、この青年の正気が疑わしくて、意図するところを理解することを彼女の脳が拒んでいるのだろう。
『こんな奴、相手してちゃダメだ……!』
彼女はほとんど本能的にそう考え、その場を離れることを決意した。じりじりと下がりつつ、逃げるための経路を探る。
できれば<家>にはついてこられたくなかった。沢からは斜面を上りきってすぐのところにあるので、探されたら簡単に見付かってしまうかもしれないものの、それでもそのまま連れて戻りたくはない。
と、ふとイティラの頭にキトゥハの姿がよぎる。
『そう言えば、西の獣人の集落が人間に滅ぼされたって言ってたな……人間の王族に歯向かう奴を匿ってたとかどうかで……
まさかこいつが……?』
彼女の推測はまさに大正解だった。この青年こそ、人間の王族、いや、人間の世界そのものに反旗を翻して獣人の世界を作り出そうとしている者……正確にはそれを目指す<テロリスト>の生き残りだったのである。
『ヤバい…! もしそうだとしたらこいつに関わったら人間とまできっと揉める……冗談じゃない……!』
イティラの望みは、ウルイと番って幸せに生きていくこと。
<人間の世界>とか<獣人の世界>とか、そんなものはそれこそどうでもよかったのだった。
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