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プレゼンテーション
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イティラの望みは、単に、
『ウルイとイチャイチャしていたい』
というものではなかった。
『<恋>と言えば、好きな相手とイチャイチャすることが目的で、それができればいい』
みたいに思われがちなものの、イティラの望みはそこじゃなかった。
『ウルイと番いたい!』
というものなのだから。
つまり、
『<伴侶>として共に生きたい』
ということだ。
しかしそうなると、ウルイに、
<生涯を共にするに値する存在>
であることを提示しなければならない。いわば自身と共に暮らすことのメリットについて<プレゼンテーション>しなければいけないということである。
こういう考え方については、『面倒臭い』として敬遠される傾向にあるかもしれないものの、人間関係というものは、フィクションのように<ご都合主義>では構成されていない。現実問題として相手にとっての<利>がなければ選ぶ理由がないのだ。
まあ、ここにはイティラとウルイしかいないので、イティラの方が受け入れさえすれば普通はウルイもほだされてくれると思えるかもしれないが、残念ながらウルイはそういう面ではまぎれもない<朴念仁>だった。
女性に対して幻想も抱いていない代わりに、
<男性としての欲求>
も実は未成熟だったのである。それこそ『思春期を迎えていない』レベルで。
それはおそらく、極度の人間不信が原因だと推察される。『人間と関わりたくない』という欲求の方が強すぎて、
『女性に触れたい』
という欲求を抑え付けてしまっているのだろう。
それなりに医学が進歩した世界であればもはや<一種の精神疾患>と診断されるようなものであったかもしれない。
けれど、当のウルイ自身がそれで何も不都合を感じていなかったので、そのまま放置されてきたということだ。不都合があったところでどうしようもないというのあるが。
いずれにせよ、これはイティラにとっては決して低くないハードルだろうと思われる。
ただ単に『一緒に暮らしていたい』だけであれば今の関係を続ければいいだけなものの、彼女は<その先>に進みたいのだ。
思春期に入るはずの頃にそれを抑圧してしまうほどの強い人間不信に曝されていたことである意味では『歪んでいる』彼に対し、イティラは、
<健康的な女性>
である。この違いが二人に決定的な認識の違いをもたらしていた。
ただ、その一方で、ウルイがそんな人間だったことで、イティラに対して穏やかに接することができていたということもまた事実。間違いなく血の繋がりさえない若い女性が手を伸ばせばすぐに届く場所にいれば、普通の健康的な男性であれば<そういう欲求>を抑えることに苦労しただろうし、場合によっては抑え切れなかったかもしれない。ましてや彼女は確実に<魅力的>なのだ。
けれど幸か不幸か、イティラはそんな危険には曝されなかった。
しかし反面、そこが問題点でもあるのだった。
『ウルイとイチャイチャしていたい』
というものではなかった。
『<恋>と言えば、好きな相手とイチャイチャすることが目的で、それができればいい』
みたいに思われがちなものの、イティラの望みはそこじゃなかった。
『ウルイと番いたい!』
というものなのだから。
つまり、
『<伴侶>として共に生きたい』
ということだ。
しかしそうなると、ウルイに、
<生涯を共にするに値する存在>
であることを提示しなければならない。いわば自身と共に暮らすことのメリットについて<プレゼンテーション>しなければいけないということである。
こういう考え方については、『面倒臭い』として敬遠される傾向にあるかもしれないものの、人間関係というものは、フィクションのように<ご都合主義>では構成されていない。現実問題として相手にとっての<利>がなければ選ぶ理由がないのだ。
まあ、ここにはイティラとウルイしかいないので、イティラの方が受け入れさえすれば普通はウルイもほだされてくれると思えるかもしれないが、残念ながらウルイはそういう面ではまぎれもない<朴念仁>だった。
女性に対して幻想も抱いていない代わりに、
<男性としての欲求>
も実は未成熟だったのである。それこそ『思春期を迎えていない』レベルで。
それはおそらく、極度の人間不信が原因だと推察される。『人間と関わりたくない』という欲求の方が強すぎて、
『女性に触れたい』
という欲求を抑え付けてしまっているのだろう。
それなりに医学が進歩した世界であればもはや<一種の精神疾患>と診断されるようなものであったかもしれない。
けれど、当のウルイ自身がそれで何も不都合を感じていなかったので、そのまま放置されてきたということだ。不都合があったところでどうしようもないというのあるが。
いずれにせよ、これはイティラにとっては決して低くないハードルだろうと思われる。
ただ単に『一緒に暮らしていたい』だけであれば今の関係を続ければいいだけなものの、彼女は<その先>に進みたいのだ。
思春期に入るはずの頃にそれを抑圧してしまうほどの強い人間不信に曝されていたことである意味では『歪んでいる』彼に対し、イティラは、
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である。この違いが二人に決定的な認識の違いをもたらしていた。
ただ、その一方で、ウルイがそんな人間だったことで、イティラに対して穏やかに接することができていたということもまた事実。間違いなく血の繋がりさえない若い女性が手を伸ばせばすぐに届く場所にいれば、普通の健康的な男性であれば<そういう欲求>を抑えることに苦労しただろうし、場合によっては抑え切れなかったかもしれない。ましてや彼女は確実に<魅力的>なのだ。
けれど幸か不幸か、イティラはそんな危険には曝されなかった。
しかし反面、そこが問題点でもあるのだった。
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