あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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正直なところ

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食事をしっかりと摂り、ウルイが煎じてくれる薬湯を飲み、体を休める。

耳の違和感以外は別にどこも辛いわけでもないので正直なところ退屈ではあったものの、こうしてウルイが傍にいて自分を見てくれるのが嬉しくて、それはそれで楽しかった。

『ずっとこのままでいいかも……』

とも思ってしまう。

もっとも、さすがにそれでは二人とも飢えてしまうので無理だとは、イティラにも分かっている。

だからこそ今のこの時間を味わいたい。それに、もしかしたら自分はこのまま病気で死んでしまうかもしれない。そう思えば余計にこのままでいたかった。

医療技術が発達した世界の者からすれば大袈裟に思えるかもしれないものの、この世界ではちょっとした風邪で肺炎を引き起こし死に至ることだってそんなに珍しくもない。

『その程度で死ぬのは弱い奴だからだ』

という考えも少なからずある。その中でウルイもイティラもたまたまここまで生き延びてこられただけだ。<死に至る病>かどうかの区別も付けられないのだから、

ゆえに、

『病気に罹る』=『死に近付く』

という感覚がずっと身近なのである。

となれば、悔いのないように、少しでも恐怖を和らげてあげられるように、二人でいる時間を穏やかに過ごしたい。

そう考えても不思議ではないだろう。

互いに相手を敬う気持ちを持つのであれば。

相手がどんなに苦しんでいても不安に怯えていても、

『自分には関係ない』

と考えて切り捨ててしまえる者でなければ。

相手の苦しみや不安を蔑ろにできてしまう者は、相手からも同じように扱われても当然だと思われる。

ウルイはキトゥハからそれを学び、イティラはウルイからそれを学んだ。

その結果がここにある。

そして、イティラは訊いた。

「ウルイ……私のこと、好き……?」

唐突に思えるかもしれないけれど、彼女にとっては大事なことだった。ちゃんと訊いておきたかった。今訊いておかないと後悔すると思った。

そんな彼女に、ウルイは、

「そうだな……イティラのことは、好きだ……」

と、とつとつとした言い方ではあったものの、愛想はやはりなかったものの、はっきりとそう応えてくれた。

ウルイ本人としてはあまりそういうことを口にするのは得意ではなかったが、だからといってここでそれを伝えずにいては、自分も後悔するだろうと思ったから、敢えて正直に口にした。

もっとも、あくまでも、

『大事な仲間としての』

という意味ではあるが。

それでも、イティラは顔を火照らせて、頬を緩ませて、

「ありがとう……! 私も好きだよ、ウルイ……♡」

満足そうに言った。

彼女自身、ウルイが『仲間として好き』という意味で言ったことは承知していたものの、彼の口から『好きだ』と言ってもらえただけで天にも昇る気持ちなのだった。



そうして三日後。

「ウルイ! ウルイ! 耳が治った! 変な音、しなくなったよ! ちゃんと聞こえるよ!!」

すっかり完治して安心しきった表情のイティラがウルイに抱き付いたのだった。

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