あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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私はまだまだだなあ……

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『私はまだまだだなあ……』

ウルイと一緒にドムグを倒したイティラだったものの、彼女に満足感や達成感は微塵もなかった。むしろ、

『ウルイを危険に曝した』

という後悔しかない。

だから彼女は、日々の狩りにおいても、より正確に迅速に確実に獲物の位置を確認し、的確に誘導できるようにと心掛けていた。

もちろん、自分の力で獲物を倒せればとも思うものの、それにはもっと大きな体が必要なことも分かっている。

とは言え、体は急には大きくならないので、今はとにかく獲物を的確に捉えてちゃんと誘導できるように体を動かせるようにならなくては。

これも、

『自分にできることをちゃんとやってくれたらいい……』

ウルイに言われたことを確実に守ろうとしてのことだった。

自分のことをちゃんと見てくれてる彼に言われたことなら、ちゃんと守ろうと思える。

実の親の言うことなんて、一つも守りたいと思えないのに。



この日も、イティラは、自分の耳や鼻がしっかりと働いているかどうかを意識しながら獲物の気配を探った。

なのに、

「……?」

耳の奥でゴソゴソと何か音がするような……?

「どうした……?」

しきりに首をかしげながら耳を触る彼女の様子に、ウルイが問い掛ける。するとイティラは、正直に、

「なんか……耳がおかしい。変な音がする」

と応えた。ここで、

『何でもない。大丈夫』

とは言わないように、言わせないように、ウルイは、なんでも素直に話せるようにと彼女の言葉に普段から耳を傾けるようにしていた。だから彼女も、正直に話すことができた。

「……そうか。じゃあ、今日は帰ろう……」

ウルイの決断は早かった。彼女の耳や鼻は、自分にとっての弓を使う手や指のようなものだとウルイは考えていた。そこに何か異常があるなら、それがどんなに些細なものでも無視しなかった。実際、

「今日は矢が上手く指に乗らない。帰る……」

と言って狩りを中断したことが何度かある。

幸い、その時はただの疲労だったのか翌日には元通りになって普通に狩りができるようになったものの、そんな彼の姿を見ていたこともあり、イティラも、

「分かった……」

と、残念そうではありつつ、無理することなく帰路に就く。

ただ、その途中も、しきりに耳を気にする彼女に、ウルイは、

「もしかしたら<耳鬼みみおに>かもしれない。薬草を摘んで帰ろう」

そう声を掛け、鎮痛・消炎効果のある薬草を摘み、家に戻るとさっそくそれを煎じて薬湯とし、イティラに飲ませた。

ちなみに、<耳鬼みみおに>とは、彼の故郷の言葉で、<中耳炎>に当たる疾病を指す言葉だった。

『耳に小さな鬼が入り込んで悪さをする』

と言い伝えられてきたことでその名がついたらしい。

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