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キトゥハの<教え>
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ウルイは決して、
『できもしないことを無理してやろうとする』
ことを<勇気>だなどと思っていなかった。そんなことをする者が<優秀>だとも思っていなかった。
それは実は、キトゥハの<教え>でもある。キトゥハは、
「できることを確実にやれ。その積み重ねが、<できないこと>を<できること>に変える」
彼の下にいた時には今一つ意味が理解できなかった。人間の世界にいた時には、
「やれなくてもやれ! できない奴は要らん!!」
と言われ、できなければメシを抜かれた。だからメシにありつくために必死にできるようになろうとした。
そのおかげでできるようになったことはいくつもある。
が、それは同時に、
『俺が大きくなったら殺してやる……!』
という<憎悪>も強く大きく育てた。そしてその憎悪は、今もウルイの中で息衝いている。
それに比べて、キトゥハに対しては恨みなど欠片もない。信用はしていなかったにせよ、恨まなければならない理由がそもそもなかった。
怒鳴られもせず、叩かれもせず、ただただ丁寧に、<生きるための技術と知恵>を授けてくれただけで。
「…何故お前は殴らない……? 他の大人はちょっと気に入らないことがあるだけで殴ってくるのに……」
キトゥハにそう問い掛けたことがある。
けれど彼は、そんなウルイに対しても、
「おかしなことを訊く。私がお前を殴って何の得がある? 私には自分より弱い相手を殴って憂さを晴らす趣味などないよ。
それに、私の教えたことができなくて困るのはお前であって私じゃない」
飄々とした様子でそう応えただけだった。加えて、
「私がもし、役所の人間でお前が部下だったとしても、私はお前の仕事ぶりをただ評価するだけだ」
とも。それに対してウルイは、
「……でもそれじゃ、お前もお前の上の奴から『仕事してない』って言われるんじゃないのか……?」
とも重ねて問い掛けたが、
それについてもキトゥハは平然と、
「それこそ私の普段の仕事ぶりが問われるだけだな。私が上から信頼されていれば、そんなことで評価が揺らいだりはしない」
と応えただけだった。
とにかく自分が知る<大人>とは違いすぎていて、当時のウルイはひたすら困惑していた。
けれど、今ならキトゥハの言っていたことが分かる。
生きるために必要なことができるかどうかは、本人の問題だ。
それに、できることできないことは人によっても違う。
イティラは弓についてはまったくモノにならなかったが、それを補って余りある耳と鼻とよく動く体がある。弓ができなくても何も問題はない。そしてその部分についてはウルイは彼女に敵わない。
でも、二人ともそれで生きていく上で問題はない。
弓ができないことでイティラを叱責しても何の意味もないのだ。
『できもしないことを無理してやろうとする』
ことを<勇気>だなどと思っていなかった。そんなことをする者が<優秀>だとも思っていなかった。
それは実は、キトゥハの<教え>でもある。キトゥハは、
「できることを確実にやれ。その積み重ねが、<できないこと>を<できること>に変える」
彼の下にいた時には今一つ意味が理解できなかった。人間の世界にいた時には、
「やれなくてもやれ! できない奴は要らん!!」
と言われ、できなければメシを抜かれた。だからメシにありつくために必死にできるようになろうとした。
そのおかげでできるようになったことはいくつもある。
が、それは同時に、
『俺が大きくなったら殺してやる……!』
という<憎悪>も強く大きく育てた。そしてその憎悪は、今もウルイの中で息衝いている。
それに比べて、キトゥハに対しては恨みなど欠片もない。信用はしていなかったにせよ、恨まなければならない理由がそもそもなかった。
怒鳴られもせず、叩かれもせず、ただただ丁寧に、<生きるための技術と知恵>を授けてくれただけで。
「…何故お前は殴らない……? 他の大人はちょっと気に入らないことがあるだけで殴ってくるのに……」
キトゥハにそう問い掛けたことがある。
けれど彼は、そんなウルイに対しても、
「おかしなことを訊く。私がお前を殴って何の得がある? 私には自分より弱い相手を殴って憂さを晴らす趣味などないよ。
それに、私の教えたことができなくて困るのはお前であって私じゃない」
飄々とした様子でそう応えただけだった。加えて、
「私がもし、役所の人間でお前が部下だったとしても、私はお前の仕事ぶりをただ評価するだけだ」
とも。それに対してウルイは、
「……でもそれじゃ、お前もお前の上の奴から『仕事してない』って言われるんじゃないのか……?」
とも重ねて問い掛けたが、
それについてもキトゥハは平然と、
「それこそ私の普段の仕事ぶりが問われるだけだな。私が上から信頼されていれば、そんなことで評価が揺らいだりはしない」
と応えただけだった。
とにかく自分が知る<大人>とは違いすぎていて、当時のウルイはひたすら困惑していた。
けれど、今ならキトゥハの言っていたことが分かる。
生きるために必要なことができるかどうかは、本人の問題だ。
それに、できることできないことは人によっても違う。
イティラは弓についてはまったくモノにならなかったが、それを補って余りある耳と鼻とよく動く体がある。弓ができなくても何も問題はない。そしてその部分についてはウルイは彼女に敵わない。
でも、二人ともそれで生きていく上で問題はない。
弓ができないことでイティラを叱責しても何の意味もないのだ。
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