あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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やっぱり子供だからかなあ……

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怪物のようなドムグを倒したイティラとウルイだったものの、翌日にはもうそんなことなどなかったかのようにいつも通りに過ごした。

昼までゆっくり休んだことで体力も回復。手近なところで狩りを済ませることになった以外は普通だった。

ただ、

「イティラのおかげで助かった。ありがとう……」

ぐっすり眠った後に目を覚ました彼女に、ウルイが頭を撫でながら柔和な表情で言ってくれた。

それが嬉しくて、

「にひひひひ♡」

イティラは頬を緩ませてしまう。

とは言え、ウルイの目は、まだまだ自分を、

<よく頑張った子供>

的に見ているのが察せられてしまって、そこだけが残念だった。

ウルイと一緒に狩りに出た時、後ろを歩きながら、自分の胸を掴み、

『やっぱり子供だからかなあ……』

などと溜息が出てしまう。

「……?」

何かの気配を察したのかウルイが振り返ると、パッと手を離したものの、

「どこか痛いのか…?」

と問い掛けられたのには、

「あ、そうじゃないよ、大丈夫…!」

少し慌ててしまう。

「そうか……ならいいが……」

そう言った彼が正面に向き直ると同時に、

『すっごく私のことを見てくれてるのにな~……肝心なことには気付かないとか……わけ分かんないよ』

小さく舌を出す。

そんな小さな不満もありながらも、実の両親や兄姉と一緒にいた頃に比べれば今の暮らしは<天国>だった。

ドムグのような危険な敵はいても、それは決して、

<味方のような敵>

ではない。

一方的に虐げておきながら<育ててやった恩>を押し付けてくるような輩ではないのだ。

贅沢もさせてくれないし何か面白い遊びをさせてくれるわけでもないものの、そんなことはどうでもよかった。

『自分が自分として生きていることを認めてくれている』

その実感があれば他は要らない。

こんな、人でも獣でもない自分が生きていることを許してくれているだけで……

だから自分も、ウルイのことを認めたいと思う。

気の利いた贈り物をしてくれるわけでもない、シャレた格好をしてるわけでもない、たぶん、人間の世界でなら他の女性になんて振り向いてももらえないであろう彼のことを。

「ウルイ…! 兎だ! 私が捕まえてくる……!」

ウルイよりも先に耳と鼻で獲物の気配を捉えたイティラが、そう言って走り出した。

「無理はするなよ……!」

自分を案じてくれる彼の声。

『無理なんてするわけないよ…! 私は、ずっとウルイと一緒にいたいんだから……!』

そうだった。ウルイも、自分にできないことを無理してやろうとしなかった。だからイティラもそんな彼を見倣っていた。

できることは勇気をもって行う。

だけど、できないことを無理にやろうとして危険を招くなんてことは、真っ平御免なのだった。

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