41 / 126
本当の望み
しおりを挟む
「正直なところ、これはどうしようもないな……」
ようやく何とか動けるまで回復したウルイが、縋りつくイティラの肩を抱きながらドムグの死体を見下ろしながら呟いた。
おそらく全身に毒が回り、肉は汚染されているだろう。下手に触ることもできない。
なので、その場で火をかけて焼くことにした。放っておけば他の獣が食べて死ぬかもしれない。それは望むところではない。
延焼を防ぐためと燃料とするために周囲の下草を刈る。疲れてはいるが、そうも言っていられない。
下草を刈り終わると、焚き火をする際に火が点きにくい時などの燃料用として持ち歩いていた油をすべてドムグの死体に掛け、火を点ける。
さすがに油のおかげでパアッと燃え上がり、ドムグは炎に包まれた。
いつもよりも大きな<焚き火>になってしまったが、今日はここで過ごすことにした。火が燃え移らないように見張らないといけないというのもある。
干し肉を齧り近くに生っていた果実を口にしていくらか体力を回復したイティラに近くの沢で水を汲んできてもらって、改めて食事の用意をする。
ドムグの肉は食べられないので、携帯していた干し肉と周囲で採取した木の実と果実だ。
その後、交代しながら一晩中、火が大きくなりすぎないように調節しながら、しかし小さくなれば少しずつ拾い集めた薪を足して見張りを続け、次の日の昼前、ようやくほぼ燃え尽きたことを確認、最後に水を掛けて確実に火の始末をした後、二人は家路に着いた。
<怪物>を倒した喜びも高揚感もない。ただただ、
「疲れた……」
「ああ…まったくだ……」
二人してボヤきながら重い体を引きずるようにして帰る。
そうして日が暮れる寸前に家に着くと改めて食事にして、その日はもうそのまま寝た。
翌日の昼まで。
完全に熟睡できないので、その分、時間を掛けて体を休めたのだ。
もっとも、イティラの方はまだ子供だからか眠りが深く、その辺りは頼りなさもありながら、それでも、
「ありがとう……イティラのおかげで生き延びられたよ……」
眠りが浅くなった時、自分と違ってぐっすりと眠っている彼女のあどけない寝顔を見て、ウルイはしみじみと呟いた。その貌がひどく優しい。いつもの陰鬱な表情の彼ではなかった。
ウルイにとっても、彼女の存在はすでに欠かせないものになっていた。
イティラの望んだとおりに。
もっとも、この時の二人の姿は、まだまだ<父親と娘>のようにも見えるものだっただろう。
イティラの<本当の望み>には程遠い。
この時、彼女が深い眠りの中で見ていた<夢>の実現には時間が掛かりそうなのだった。
ようやく何とか動けるまで回復したウルイが、縋りつくイティラの肩を抱きながらドムグの死体を見下ろしながら呟いた。
おそらく全身に毒が回り、肉は汚染されているだろう。下手に触ることもできない。
なので、その場で火をかけて焼くことにした。放っておけば他の獣が食べて死ぬかもしれない。それは望むところではない。
延焼を防ぐためと燃料とするために周囲の下草を刈る。疲れてはいるが、そうも言っていられない。
下草を刈り終わると、焚き火をする際に火が点きにくい時などの燃料用として持ち歩いていた油をすべてドムグの死体に掛け、火を点ける。
さすがに油のおかげでパアッと燃え上がり、ドムグは炎に包まれた。
いつもよりも大きな<焚き火>になってしまったが、今日はここで過ごすことにした。火が燃え移らないように見張らないといけないというのもある。
干し肉を齧り近くに生っていた果実を口にしていくらか体力を回復したイティラに近くの沢で水を汲んできてもらって、改めて食事の用意をする。
ドムグの肉は食べられないので、携帯していた干し肉と周囲で採取した木の実と果実だ。
その後、交代しながら一晩中、火が大きくなりすぎないように調節しながら、しかし小さくなれば少しずつ拾い集めた薪を足して見張りを続け、次の日の昼前、ようやくほぼ燃え尽きたことを確認、最後に水を掛けて確実に火の始末をした後、二人は家路に着いた。
<怪物>を倒した喜びも高揚感もない。ただただ、
「疲れた……」
「ああ…まったくだ……」
二人してボヤきながら重い体を引きずるようにして帰る。
そうして日が暮れる寸前に家に着くと改めて食事にして、その日はもうそのまま寝た。
翌日の昼まで。
完全に熟睡できないので、その分、時間を掛けて体を休めたのだ。
もっとも、イティラの方はまだ子供だからか眠りが深く、その辺りは頼りなさもありながら、それでも、
「ありがとう……イティラのおかげで生き延びられたよ……」
眠りが浅くなった時、自分と違ってぐっすりと眠っている彼女のあどけない寝顔を見て、ウルイはしみじみと呟いた。その貌がひどく優しい。いつもの陰鬱な表情の彼ではなかった。
ウルイにとっても、彼女の存在はすでに欠かせないものになっていた。
イティラの望んだとおりに。
もっとも、この時の二人の姿は、まだまだ<父親と娘>のようにも見えるものだっただろう。
イティラの<本当の望み>には程遠い。
この時、彼女が深い眠りの中で見ていた<夢>の実現には時間が掛かりそうなのだった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

[完]僕の前から、君が消えた
小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』
余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。
残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。
そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて……
*ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる