あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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本当の望み

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「正直なところ、これはどうしようもないな……」

ようやく何とか動けるまで回復したウルイが、縋りつくイティラの肩を抱きながらドムグの死体を見下ろしながら呟いた。

おそらく全身に毒が回り、肉は汚染されているだろう。下手に触ることもできない。

なので、その場で火をかけて焼くことにした。放っておけば他の獣が食べて死ぬかもしれない。それは望むところではない。

延焼を防ぐためと燃料とするために周囲の下草を刈る。疲れてはいるが、そうも言っていられない。

下草を刈り終わると、焚き火をする際に火が点きにくい時などの燃料用として持ち歩いていた油をすべてドムグの死体に掛け、火を点ける。

さすがに油のおかげでパアッと燃え上がり、ドムグは炎に包まれた。

いつもよりも大きな<焚き火>になってしまったが、今日はここで過ごすことにした。火が燃え移らないように見張らないといけないというのもある。

干し肉を齧り近くに生っていた果実を口にしていくらか体力を回復したイティラに近くの沢で水を汲んできてもらって、改めて食事の用意をする。

ドムグの肉は食べられないので、携帯していた干し肉と周囲で採取した木の実と果実だ。

その後、交代しながら一晩中、火が大きくなりすぎないように調節しながら、しかし小さくなれば少しずつ拾い集めた薪を足して見張りを続け、次の日の昼前、ようやくほぼ燃え尽きたことを確認、最後に水を掛けて確実に火の始末をした後、二人は家路に着いた。

<怪物>を倒した喜びも高揚感もない。ただただ、

「疲れた……」

「ああ…まったくだ……」

二人してボヤきながら重い体を引きずるようにして帰る。

そうして日が暮れる寸前に家に着くと改めて食事にして、その日はもうそのまま寝た。

翌日の昼まで。

完全に熟睡できないので、その分、時間を掛けて体を休めたのだ。

もっとも、イティラの方はまだ子供だからか眠りが深く、その辺りは頼りなさもありながら、それでも、

「ありがとう……イティラのおかげで生き延びられたよ……」

眠りが浅くなった時、自分と違ってぐっすりと眠っている彼女のあどけない寝顔を見て、ウルイはしみじみと呟いた。そのかおがひどく優しい。いつもの陰鬱な表情の彼ではなかった。

ウルイにとっても、彼女の存在はすでに欠かせないものになっていた。

イティラの望んだとおりに。

もっとも、この時の二人の姿は、まだまだ<父親と娘>のようにも見えるものだっただろう。

イティラの<本当の望み>には程遠い。

この時、彼女が深い眠りの中で見ていた<夢>の実現には時間が掛かりそうなのだった。

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