あなたのことは一度だってお父さんだと思ったことなんてない

京衛武百十

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食事

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少女の両親は言っていた。

「人間は恐ろしい怪物だ」

「人間は自分達を殺して毛皮をはいで肉を喰らう」

「人間を欺いてその富を掠め取るために自分達は人間の姿になる」

「それができない上に獣にもなれないお前は生きてはいけない」

と。

子供達の魂にまで刷り込むために。

だから少女も人間を恐れた。恐れつつも、

『楽に殺してほしいな……』

とも思ってしまった。

<生きたいという本能>と、<死んで楽になりたいという願望>が、今の少女の本質を作り上げていた。

怯えた目で自分を見る少女に、しかし狩人は言う。

「……今、スープも温めてる。待てないなら、肉と水を一口ずつ含んで、しっかりと噛んでどろどろにしてからゆっくり呑み込め……」

頭に被っていた毛皮を取った狩人のかおは、ある程度は整っているようにも見えつつ、どこか投げやりで陰惨な印象もあるものだった。

まるで、生きることに疲れているかのような……

若いのかそれなりの年齢なのかも、見ただけでは分からない。

口調も冷淡で事務的で感情もこもっていなかったが、同時に冷酷な印象はない。

実に掴みどころのない男。

けれど少なくとも今すぐ自分の命を奪おうとしているわけではないことが察せられ、彼女は、落胆と安堵を同時に味わった。

死にたいのに生きたい。

生きたいのに死にたい。

そのどちらも、まぎれもなく少女の本心。

けれど今は、『生きたい』という本能が勝ってしまったようだ。

「……」

狩人が差し出した肉の誘惑に逆らえず、おずおずと手を伸ばして受け取り、続いて渡された木の器に入った水と共に口に含んで、言われたとおりに何度も何度も何度も何度も噛んで、冷たかった水が自分の体温と変わらなくなってからゆっくりと呑み込むと、今度はちゃんと胃の腑に収まり、それと共になんとも言えない感覚が広がっていった。

ほとんどしおれてしまっていた自分の命に水が与えられ、わずかに潤いが戻るかのような……

それを実感した彼女は、さらにもう一口、肉と水を含んで同じようにしっかりと咀嚼して自らの命として取り込んでいく。

こうして、大人なら一口で頬張ってしまいそうな肉の串焼きを、五回に分けてようやく食べ切り、

「ほら、もし食べられるようなこれも……」

と、やはり木の器に盛られ湯気を上げるスープを受け取り、そのまま器に口をつけてすすりだした。

「……」

木でできた匙も渡そうとした狩人は、手持ち無沙汰に、数回、匙を小さく振った後で自分で使うことにして、自らもスープを口にし始める。

途端に男の口に広がる鉄臭い味。少量の干した山菜を具とし、水で溶いた<血>と一つまみの塩で仕上げたスープだった。

はっきり言って『味を楽しむ』ためのものではない。ただただ生きる上で必要な栄養素を摂り込むためだけの食事なのであった。

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