113 / 1,097
自分が言われる側なのに
しおりを挟む
「うちのレーベルで連載を持ってらした作家さんの作品が最終巻を迎えたんですが、その結末に対して批判が殺到して、その方が『もう嫌だ! 自分勝手な読者のためになんて書きたくない!』とおっしゃってて。担当者も頭を抱えているんです……」
いつものように仕事の打ち合わせのためにうちに来た私の担当編集、<月城さくら>がいつもより暗い表情をしてる気がしたから問い掛けたら、そう白状した。
「ああ、あるなあ。これまでにもいろんな作品でそういうことがあったよな」
いつもの<仕事用の私>がそう言うと、さくらも、
「はい。読者の望んだ結末じゃなかったらそういう意見が集まるのはいつものことですけど、今回は特に酷くて……」
困ったように微笑みながら言った。
でも実は、私の作品では、そういうのはあまりない。それは、
『私が読者の期待通りに書けている』
からじゃなく、
『まあ、これが<蒼井霧雨>って人だから』
と、半ば諦観を持って受け止められてるからっていうのもあるんだろうな。
しかも私が、
『読者の意見には耳を貸さない!』
ってスタンスなのは、昔から私を知ってくれてる読者にはそれこそ有名だからね。
だけど今回の作家さんは、割と、『読者と積極的に交流して意見を取り入れることもある』ってスタンスの人だったから、余計に『裏切られた!』的に受け止められちゃったみたいだね。
でも、何度も言うけど、世の中ってのは元々、
『自分の思い通りにならない』
ものだからね? アニメや漫画や小説の展開や結末だってそうだよ。
『完璧に自分の思い通りになるのが当たり前』
とか思うのがそもそもおかしいんだ。
だから私は、自分で書くようになった。自分が思ってる通りの展開や結末なんて、<私じゃない人>がその通りに書けるはずがないからね。だってその人は、
『私じゃない』
んだから。
それに、経験があるんだよ。ある漫画の結末が<クソ>だっていうんでメチャクチャに叩かれてたんだけど、私は、
『ああ、あるほど。こういうのもアリなんだな』
ってむしろ感心したんだ。
主人公とヒロインの<選択>について、『気持ち悪い!』の大合唱だったけど、私は逆に、
『この二人が世間の思う<普通>を選択したら、それの方が私は納得できないな』
と思ったんだよね。
だって、ヒロインの方が特に<普通じゃない境遇>に育った人だったからさ。
あんなまともじゃない親の下に生まれて、まともじゃない大人に囲まれて幼少期を過ごして、強い孤独感と承認欲求と同時に、<歪みまくった大人観>を持ってしまったヒロインが<普通じゃない選択>をするのは、ものすごく自然な流れじゃん。
それを『気持ち悪い』とか、何様よ。って思うんだよね。
『いい歳して漫画とか読んでるなんて気持ち悪い』
って自分が言われる側なのに、言われてきたはずなのに、自分の期待通りの選択をしなかったキャラを『気持ち悪い』って言っちゃうんだよ? キャラだけじゃなくて、作者に対してまで『気持ち悪い』とか言っちゃうし。
自分を『気持ち悪い』と蔑む人達と同じことをするんだよ?
どういう心理なんだろうね、あれ。
いつものように仕事の打ち合わせのためにうちに来た私の担当編集、<月城さくら>がいつもより暗い表情をしてる気がしたから問い掛けたら、そう白状した。
「ああ、あるなあ。これまでにもいろんな作品でそういうことがあったよな」
いつもの<仕事用の私>がそう言うと、さくらも、
「はい。読者の望んだ結末じゃなかったらそういう意見が集まるのはいつものことですけど、今回は特に酷くて……」
困ったように微笑みながら言った。
でも実は、私の作品では、そういうのはあまりない。それは、
『私が読者の期待通りに書けている』
からじゃなく、
『まあ、これが<蒼井霧雨>って人だから』
と、半ば諦観を持って受け止められてるからっていうのもあるんだろうな。
しかも私が、
『読者の意見には耳を貸さない!』
ってスタンスなのは、昔から私を知ってくれてる読者にはそれこそ有名だからね。
だけど今回の作家さんは、割と、『読者と積極的に交流して意見を取り入れることもある』ってスタンスの人だったから、余計に『裏切られた!』的に受け止められちゃったみたいだね。
でも、何度も言うけど、世の中ってのは元々、
『自分の思い通りにならない』
ものだからね? アニメや漫画や小説の展開や結末だってそうだよ。
『完璧に自分の思い通りになるのが当たり前』
とか思うのがそもそもおかしいんだ。
だから私は、自分で書くようになった。自分が思ってる通りの展開や結末なんて、<私じゃない人>がその通りに書けるはずがないからね。だってその人は、
『私じゃない』
んだから。
それに、経験があるんだよ。ある漫画の結末が<クソ>だっていうんでメチャクチャに叩かれてたんだけど、私は、
『ああ、あるほど。こういうのもアリなんだな』
ってむしろ感心したんだ。
主人公とヒロインの<選択>について、『気持ち悪い!』の大合唱だったけど、私は逆に、
『この二人が世間の思う<普通>を選択したら、それの方が私は納得できないな』
と思ったんだよね。
だって、ヒロインの方が特に<普通じゃない境遇>に育った人だったからさ。
あんなまともじゃない親の下に生まれて、まともじゃない大人に囲まれて幼少期を過ごして、強い孤独感と承認欲求と同時に、<歪みまくった大人観>を持ってしまったヒロインが<普通じゃない選択>をするのは、ものすごく自然な流れじゃん。
それを『気持ち悪い』とか、何様よ。って思うんだよね。
『いい歳して漫画とか読んでるなんて気持ち悪い』
って自分が言われる側なのに、言われてきたはずなのに、自分の期待通りの選択をしなかったキャラを『気持ち悪い』って言っちゃうんだよ? キャラだけじゃなくて、作者に対してまで『気持ち悪い』とか言っちゃうし。
自分を『気持ち悪い』と蔑む人達と同じことをするんだよ?
どういう心理なんだろうね、あれ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。
10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。
婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。
その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。
それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー?
【作者よりみなさまへ】
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
ショタパパ ミハエルくん
京衛武百十
キャラ文芸
蒼井ミハエルは、外見は十一歳くらいの人間にも見えるものの、その正体は、<吸血鬼>である。人間の<ラノベ作家>である蒼井霧雨(あおいきりさめ)との間に子供を成し、幸せな家庭生活を送っていた。
なお、長男と長女はミハエルの形質を受け継いで<ダンピール>として生まれ、次女は蒼井霧雨の形質を受け継いで普通の人間として生まれた。
これは、そういう特殊な家族構成でありつつ、人間と折り合いながら穏当に生きている家族の物語である。
筆者より
ショタパパ ミハエルくん(マイルドバージョン)として連載していたこちらを本編とし、タイトルも変更しました。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる