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自分が言われる側なのに

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「うちのレーベルで連載を持ってらした作家さんの作品が最終巻を迎えたんですが、その結末に対して批判が殺到して、その方が『もう嫌だ! 自分勝手な読者のためになんて書きたくない!』とおっしゃってて。担当者も頭を抱えているんです……」

いつものように仕事の打ち合わせのためにうちに来た私の担当編集、<月城つきしろさくら>がいつもより暗い表情をしてる気がしたから問い掛けたら、そう白状した。

「ああ、あるなあ。これまでにもいろんな作品でそういうことがあったよな」

いつもの<仕事用の私>がそう言うと、さくらも、

「はい。読者の望んだ結末じゃなかったらそういう意見が集まるのはいつものことですけど、今回は特に酷くて……」

困ったように微笑みながら言った。

でも実は、私の作品では、そういうのはあまりない。それは、

『私が読者の期待通りに書けている』

からじゃなく、

『まあ、これが<蒼井霧雨>って人だから』

と、半ば諦観を持って受け止められてるからっていうのもあるんだろうな。

しかも私が、

『読者の意見には耳を貸さない!』

ってスタンスなのは、昔から私を知ってくれてる読者にはそれこそ有名だからね。

だけど今回の作家さんは、割と、『読者と積極的に交流して意見を取り入れることもある』ってスタンスの人だったから、余計に『裏切られた!』的に受け止められちゃったみたいだね。

でも、何度も言うけど、世の中ってのは元々、

『自分の思い通りにならない』

ものだからね? アニメや漫画や小説の展開や結末だってそうだよ。

『完璧に自分の思い通りになるのが当たり前』

とか思うのがそもそもおかしいんだ。

だから私は、自分で書くようになった。自分が思ってる通りの展開や結末なんて、<私じゃない人>がその通りに書けるはずがないからね。だってその人は、

『私じゃない』

んだから。

それに、経験があるんだよ。ある漫画の結末が<クソ>だっていうんでメチャクチャに叩かれてたんだけど、私は、

『ああ、あるほど。こういうのもアリなんだな』

ってむしろ感心したんだ。

主人公とヒロインの<選択>について、『気持ち悪い!』の大合唱だったけど、私は逆に、

『この二人が世間の思う<普通>を選択したら、それの方が私は納得できないな』

と思ったんだよね。

だって、ヒロインの方が特に<普通じゃない境遇>に育った人だったからさ。

あんなまともじゃない親の下に生まれて、まともじゃない大人に囲まれて幼少期を過ごして、強い孤独感と承認欲求と同時に、<歪みまくった大人観>を持ってしまったヒロインが<普通じゃない選択>をするのは、ものすごく自然な流れじゃん。

それを『気持ち悪い』とか、何様よ。って思うんだよね。

『いい歳して漫画とか読んでるなんて気持ち悪い』

って自分が言われる側なのに、言われてきたはずなのに、自分の期待通りの選択をしなかったキャラを『気持ち悪い』って言っちゃうんだよ? キャラだけじゃなくて、作者に対してまで『気持ち悪い』とか言っちゃうし。

自分を『気持ち悪い』と蔑む人達と同じことをするんだよ?

どういう心理なんだろうね、あれ。

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