108 / 115
新世界の章
認めるしか
しおりを挟む
「いや、実に興味深い結果だよ。同じ処置を施したイニティウムの<メイトギア人間>らと比べても格段に顕著な違いが現れている。私は今、とても爽快な気分だ!」
博士と面会する前、もしかしたらがっかりさせてしまうんじゃないかと不安になっていたのが嘘のように、博士ははしゃいでいた。
そういう人なのは分かっていたし、がっかりさせなかったのはいいけれど、さすがに苦笑いが浮かんでしまう。見れば、リリア・ツヴァイもそうだった。彼女が苦笑いを浮かべずにいられない状態だったから、私もそうなったんだろうな。
ただ、それでも、博士が喜んでくれたことについては、素直に嬉しかった。
そう、『嬉しい』んだ。ロボットには本来ない筈の感覚。
事ここに至って、私はもう認めるしかなかった。自分の中に、<心>とは言えないかもしれないけれど、極めてそれに近い何かが生じていることは。
私の場合は、リリア・ツヴァイの存在があってこそのものだから、単純に『AIを搭載したロボットに<心>が生じた』とは言えないと思う。だけど、『感情を表現しうる肉体を有すれば、人工知能にも<心>が生じうる可能性がある』ことは示されたんじゃないだろうか。
博士は言う。
「全身義体が人間の心理に少なくない影響を与えることが確認されたことで、かねてからその可能性は指摘されていたのだ。感情を増幅させる肉体の有無こそが、<心>というものには必須なのではないかということが。
今回の事例だけで断定することはできないが、他のメイトギア人間らにもそれを窺わせる兆候は見られている。私に反発する者も出始めているからな。
私はこれを予測して、肉体の反応までをも再現する為に、私自身を移し替える人工知能の性能に拘った。故にあれほどの大型になってしまったが、肉体の反応の再現を効率的に行うことによって小型化の目処が得られるだろう。これも君達のおかげだよ! 感謝する!」
この人は、本当に相変わらずだな。自分の研究したいことに対してはどこまでも貪欲で正直だ。
確かに、自らをCLS感染の実験台に使ってCLSに感染させて死亡して、人工頭脳が本体となってからは、その<狂気>の度合いが僅かに薄まって、それが私に『アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士は死んだ』と認識させる原因の一つにはなったけど、それでもそういう部分の変化は本当に微々たるものだった。人間だって、経験を積むことによって僅かずつではあっても変化していく。
今にして思えば、その程度の変化だったのかもしれないな。
博士と面会する前、もしかしたらがっかりさせてしまうんじゃないかと不安になっていたのが嘘のように、博士ははしゃいでいた。
そういう人なのは分かっていたし、がっかりさせなかったのはいいけれど、さすがに苦笑いが浮かんでしまう。見れば、リリア・ツヴァイもそうだった。彼女が苦笑いを浮かべずにいられない状態だったから、私もそうなったんだろうな。
ただ、それでも、博士が喜んでくれたことについては、素直に嬉しかった。
そう、『嬉しい』んだ。ロボットには本来ない筈の感覚。
事ここに至って、私はもう認めるしかなかった。自分の中に、<心>とは言えないかもしれないけれど、極めてそれに近い何かが生じていることは。
私の場合は、リリア・ツヴァイの存在があってこそのものだから、単純に『AIを搭載したロボットに<心>が生じた』とは言えないと思う。だけど、『感情を表現しうる肉体を有すれば、人工知能にも<心>が生じうる可能性がある』ことは示されたんじゃないだろうか。
博士は言う。
「全身義体が人間の心理に少なくない影響を与えることが確認されたことで、かねてからその可能性は指摘されていたのだ。感情を増幅させる肉体の有無こそが、<心>というものには必須なのではないかということが。
今回の事例だけで断定することはできないが、他のメイトギア人間らにもそれを窺わせる兆候は見られている。私に反発する者も出始めているからな。
私はこれを予測して、肉体の反応までをも再現する為に、私自身を移し替える人工知能の性能に拘った。故にあれほどの大型になってしまったが、肉体の反応の再現を効率的に行うことによって小型化の目処が得られるだろう。これも君達のおかげだよ! 感謝する!」
この人は、本当に相変わらずだな。自分の研究したいことに対してはどこまでも貪欲で正直だ。
確かに、自らをCLS感染の実験台に使ってCLSに感染させて死亡して、人工頭脳が本体となってからは、その<狂気>の度合いが僅かに薄まって、それが私に『アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士は死んだ』と認識させる原因の一つにはなったけど、それでもそういう部分の変化は本当に微々たるものだった。人間だって、経験を積むことによって僅かずつではあっても変化していく。
今にして思えば、その程度の変化だったのかもしれないな。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
(完結)獅子姫の婿殿
七辻ゆゆ
ファンタジー
ドラゴンのいる辺境グランノットに、王と踊り子の間に生まれた王子リエレは婿としてやってきた。
歓迎されるはずもないと思っていたが、獅子姫ヴェネッダは大変に好意的、素直、あけっぴろげ、それはそれで思惑のあるリエレは困ってしまう。
「初めまして、婿殿。……うん? いや、ちょっと待って。話には聞いていたがとんでもなく美形だな」
「……お初にお目にかかる」
唖然としていたリエレがどうにか挨拶すると、彼女は大きく口を開いて笑った。
「皆、見てくれ! 私の夫はなんと美しいのだろう!」
5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる