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新世界の章
アリスマリア・ハーガン・メルシュ
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博士はもう亡くなっているのに、そこにいるのは博士本人じゃない筈なのに、博士じゃないと思ったからここを出ていったのに、私はどうしてこんなに不安定になっているんだろう。
まるで、家出をして、でも不安になって帰ってきて、親の前に立とうとしてる子供のように。
心臓が無いから胸はドキドキしたりしないのに、リリア・ツヴァイの体の反応が私にも伝わってきてしまう。遮断してた筈が、いつの間にか再接続されてた。
いや、たぶん、私が接続したんだと思う。こういう時、人間がどう感じるのかを知りたくて。
リリア・ツヴァイも、鼓動が早くなってるだけじゃなくて、汗がだらだらと流れている。全身が緊張してるのが分かる。
そんな私達の前で、かちゃり、と、ドアが開けられた。
その陰から現れた、さらりとした黒髪を胸まで伸ばし、細身の眼鏡の奥から涼し気な瞳が覗く、白衣の女性。
アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士。
稀代の天才にして、生粋の狂人。孤高の研究者。
そして、私達の<生みの親>。
博士によって改造されて作り出されたリリア・ツヴァイはもとより、本来は市販品だとしても今の私になったのは、まぎれもなく博士の手によるもの。
「やあ、久しぶりだね。元気にしてたかい? 私はまあ、見ての通り、相変わらずだよ」
博士の<体>も、実はCLS患者のそれを改造したものだ。もっとも、今のそれは、<CLSによって亡くなった本来のアリスマリア・ハーガン・メルシュ博士自身の体>だけど。
だから彼女は、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士自身であり、だけどアリスマリア・ハーガン・メルシュ博士じゃないという、とても複雑な存在。
でも、そんなことはどうでもよかった。
「博士ぇ~!」
迷子が親と再会してホッとして縋りつくみたいに、リリア・ツヴァイが博士に抱きついた。人間の体を持つ彼女には、十数年の時間は長かったのかもしれない。
納得して立ち去った筈なのに、もう帰らなくてもいいと思って出てきたのに。
リリア・ツヴァイの肉体の反応が私にも伝わってきて、それがまるで私の体のようにも感じられた。私の体がそう反応してるみたいに感じられた。
胸が締め付けられて、涙が勝手に溢れてくるって。私にはその機能はない筈なのに、涙があふれてくる感覚がある。
だから表情も、<泣き顔>になってしまう。
「博士、博士……!」
この時の私達の姿は、本当に、十二歳くらいのただの子供のそれだっただろうな。
「おお、おお、よしよし。いやはや、ここまでとはね」
博士はそう言いながら、優しく私達を抱き締めてくれたのだった。
まるで、家出をして、でも不安になって帰ってきて、親の前に立とうとしてる子供のように。
心臓が無いから胸はドキドキしたりしないのに、リリア・ツヴァイの体の反応が私にも伝わってきてしまう。遮断してた筈が、いつの間にか再接続されてた。
いや、たぶん、私が接続したんだと思う。こういう時、人間がどう感じるのかを知りたくて。
リリア・ツヴァイも、鼓動が早くなってるだけじゃなくて、汗がだらだらと流れている。全身が緊張してるのが分かる。
そんな私達の前で、かちゃり、と、ドアが開けられた。
その陰から現れた、さらりとした黒髪を胸まで伸ばし、細身の眼鏡の奥から涼し気な瞳が覗く、白衣の女性。
アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士。
稀代の天才にして、生粋の狂人。孤高の研究者。
そして、私達の<生みの親>。
博士によって改造されて作り出されたリリア・ツヴァイはもとより、本来は市販品だとしても今の私になったのは、まぎれもなく博士の手によるもの。
「やあ、久しぶりだね。元気にしてたかい? 私はまあ、見ての通り、相変わらずだよ」
博士の<体>も、実はCLS患者のそれを改造したものだ。もっとも、今のそれは、<CLSによって亡くなった本来のアリスマリア・ハーガン・メルシュ博士自身の体>だけど。
だから彼女は、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士自身であり、だけどアリスマリア・ハーガン・メルシュ博士じゃないという、とても複雑な存在。
でも、そんなことはどうでもよかった。
「博士ぇ~!」
迷子が親と再会してホッとして縋りつくみたいに、リリア・ツヴァイが博士に抱きついた。人間の体を持つ彼女には、十数年の時間は長かったのかもしれない。
納得して立ち去った筈なのに、もう帰らなくてもいいと思って出てきたのに。
リリア・ツヴァイの肉体の反応が私にも伝わってきて、それがまるで私の体のようにも感じられた。私の体がそう反応してるみたいに感じられた。
胸が締め付けられて、涙が勝手に溢れてくるって。私にはその機能はない筈なのに、涙があふれてくる感覚がある。
だから表情も、<泣き顔>になってしまう。
「博士、博士……!」
この時の私達の姿は、本当に、十二歳くらいのただの子供のそれだっただろうな。
「おお、おお、よしよし。いやはや、ここまでとはね」
博士はそう言いながら、優しく私達を抱き締めてくれたのだった。
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