ロボ娘のち少女、ときどきゾンビ

京衛武百十

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ふたりの章

死に対する感覚

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この大陸で人が定住していた最北端に辿り着いた私達は、今度は最南端を目指して南下することにした。

ここまでで既に、旅に出てから十年の歳月が過ぎている。だけどロボットである私にとっては十年なんて本当に些細な時間の経過に過ぎない。人間の体を持つリリア・ツヴァイにしたって、<CLSに感染した人間の体>を用いていることで成長しないからその辺りの感覚は曖昧らしい。

実は、彼女の肉体の本来の持ち主の年齢で言うと、現在では既に四十前後だと推測される。

と言っても、老化抑制技術が定着し、健康寿命が二百歳を超えた今では四十歳なんてまだまだ<青二才>とか言われる年齢だけど。

ちなみに今でも、肉体年齢が成人のそれに達するまでは普通に成長する。成長しきって老化が始まってからの変化がゆっくりなんだ。それでいて、老化がある時点まで達するとそこからまた、変化が速くなる。

つまり、老化抑制の限界を超えると、それからは抑制されていなかった頃と変わらない速度で老化が進むんだ。

だから、健康で若々しい時期が長く続くだけで、老化により体が衰えてしまう時期の長さはさほど変わっていないということになる。でなければ、不自由な体を抱えて長く苦しむことになるから。それではさすがに意味がない。

さりとて、その状態が二十年三十年と続くことは変わりなく、その間に、人間は自らの命の幕引きを覚悟するそうだった。

あの住宅で亡くなっていた高齢女性も、そうして覚悟を決めていたのだろうか。

もっとも、いくら覚悟を決めているつもりでも、実際に死に直面すると人間は狼狽え、『死にたくない』と願うものだと私達は知っている。その苦痛を少しでも和らげ、心穏やかに最期を迎えられるようにケアをするのも、私達メイトギアの役目の一つだった。

私達は人間のようには死なないから、死を前にして動揺するということもない。だからこそ冷静に客観的に対処することもできる。同時に、死を前にした人間の心理状態についての知識もある。それを活用してケアを行うんだ。

ただ、それが『気に入らない』という人間もいるという。

『死なないお前達に人間の気持ちが分かるか!』

と激高する人もいるという。

だけど、そんな風に罵られても私達ロボットは憤ったりもしない。『そういうものだ』と認識し、あくまで人間に寄り添う。

それが報われなくても気にすることもない。私達は苦痛を感じないのだから。

でも、私とリリア・ツヴァイは少し事情が違ってしまった。私も相変わらず肉体的な苦痛は感じないけど、人間の死に対する感覚は、他のロボットにはないものだという認識はある。

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