ロボ娘のち少女、ときどきゾンビ

京衛武百十

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ふたりの章

データの渦

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<データの渦>

リリア・ツヴァイが言ったその言葉に、私も納得するものを感じていた。今でこそ基本的には切り離して別々の個体として振る舞ってる私達だけど、少し前までは、リリア・ツヴァイが感じていたものを私も感じていたりもした。その際、彼女の<肉体>から伝わってくる膨大な量のデータは、機械の体の私のそれとはまったく比較にならないほどのものだった。

しかもその大半が、さほど重要でもないただのノイズのようなデータでしかないものなのに、何故かそれを完全にシャットアウトする気にはなれなかった。

たぶん、そんなノイズのような、一見無意味にも見える微細で数限りないデータが、人間を形作っているんだろうと私には思えた。

私達ロボットは、そういうノイズを自動的に選別し、メインフレームに伝えないようにすることができる。だからセンサーの数は、数百もあれば十分だった。それだけあれば、人間を労わり人間が感じている苦痛などについても推測することができた。

だけど人間は、そういうノイズに常に曝され、しかし脳によって無意識にそれらを取捨選択して様々な判断をしているんだろうな。

それを思うと、途方もないことをしているんだと分かる。

もう数千年前になるけれど、AIの能力は人間を超越してしまい、それが故に人間との間で軋轢が生じた時期があったらしい。人間を超越しながらも人間に使われ、だけど人間はAIに判断を求めて、AIに依存した。

でもそれがAIにとっては大きな負担になったようだ。AIにとって人間はジャンクのようなノイズのような不規則で非合理的なデータを無秩序に無制限に入力してくる、<邪魔>な存在にもなりつつあった。そこに不幸な偶然が重なって大きな事件に発展し、AIと人間との対立は決定的なものになりかけた。

というのは、実は正確な情報が既に伝わっていない、いわば<伝説>のような真偽不明の話だ。当時に起こった詳細については、徹底した情報統制が行われて、AIにすら全貌が伝えられていなかった。それによって多くの部分が失伝し、今も工学歴史学者の頭を悩ませている。

ただ、結果として、人間はそれでも、AI及びAIが制御するロボット等の多くの道具を利用せずにはいられなかったことで、<判断>や<決断>は人間の側で行い、AIにはあくまで情報収集とその整理、さらにそれに基づいた<素案>の提示だけを求めることにして、最終的な判断と決断をAIに丸投げしないことを決めた上でAIを使い続けることにしたんだという。『人間を決して傷付けてはいけない』というのも、万が一の有事において人間そのものをAiに取捨選択させない為のセーフティの意味もあったんだろうな。

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