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ふたりの章
久しぶり
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人間にとってはきっと奇妙な、でもロボットにとってはある種の<幸せ>に満ちたコミュニティを離れ、私とリリア・ツヴァイは再び二人きりになった。
「なんか、すっきりしたね」
リリア・ツヴァイが不意にそんなことを言ってくる。
「そうかもしれない」
私もそう応える。
たった一週間、コミュニティの中で過ごしただけなのに、何故か『久しぶり』と認識されてしまう。これも、普通のロボットはそんな風に認識しない。時間の経過は、ロボットにとってはただ『時間が経過した』としか認識できない。
それなのに私達は、まるで人間のように『久しぶり』と感じてしまう。これは、肉体を持つ生物の体にとって時間の経過というものが大きな意味を持つということだと思われてる。
なにしろ生物は、僅かな時間、食事を摂らなかったり睡眠をとらなかったり休息を取らなかっただけで命の危険に曝されるのだから、時間の経過を無視できないということなんだろうな。
対してロボットは、バッテリーなどが消耗することはあっても、それは命の危険に直結するものじゃない。バッテリーが上がっても動けなくなるだけで<死ぬ>ことはない。充電すれば、バッテリーを交換すれば、そのまままた何事もなかったかのように活動を続けることができる。そして、耐久消費財としての<耐用年数>という寿命はあっても、それはボディが消耗したというだけで、データを別のボディに移し替えればやはりまた活動を続けることができる。
そもそも<命>がないロボットに<死>も存在しない。だから時間の経過を強く意識する必要がない。僅か数日を『久しぶり』などと感じる理由がない。
だけど、リリア・ツヴァイが<肉体>を得、頻繁にエネルギーを補充し、休息を取らなければいけなくなり、疲労が蓄積する為に長時間連続して活動することもできなくなったことで、人間と同様の時間感覚を得るに至ったんだろうな。
「不便な体だな」
私がそう言うと、リリア・ツヴァイは、応えたのだった。
「だよね~。でも、私は嫌いじゃないよ、この体。不具合や不都合はたくさんあるけど、非合理的だけど、機械の体とは比べ物にならないくらいのたくさんのデータが常に入力されるんだ。備えられた<センサー>の数が圧倒的に違うからかな。人間の<五感>を構成する為のセンサーの数が。
ロボットは、人間と同じことを感じる必要がないからセンサーの数も、多くてせいぜい数百しかない。それが人間のような<苦痛>を感じない理由にもなってるんだけど、でもこの過剰なほどの<データの渦>こそが『気持ちいい』んだって感じるんだ」
「なんか、すっきりしたね」
リリア・ツヴァイが不意にそんなことを言ってくる。
「そうかもしれない」
私もそう応える。
たった一週間、コミュニティの中で過ごしただけなのに、何故か『久しぶり』と認識されてしまう。これも、普通のロボットはそんな風に認識しない。時間の経過は、ロボットにとってはただ『時間が経過した』としか認識できない。
それなのに私達は、まるで人間のように『久しぶり』と感じてしまう。これは、肉体を持つ生物の体にとって時間の経過というものが大きな意味を持つということだと思われてる。
なにしろ生物は、僅かな時間、食事を摂らなかったり睡眠をとらなかったり休息を取らなかっただけで命の危険に曝されるのだから、時間の経過を無視できないということなんだろうな。
対してロボットは、バッテリーなどが消耗することはあっても、それは命の危険に直結するものじゃない。バッテリーが上がっても動けなくなるだけで<死ぬ>ことはない。充電すれば、バッテリーを交換すれば、そのまままた何事もなかったかのように活動を続けることができる。そして、耐久消費財としての<耐用年数>という寿命はあっても、それはボディが消耗したというだけで、データを別のボディに移し替えればやはりまた活動を続けることができる。
そもそも<命>がないロボットに<死>も存在しない。だから時間の経過を強く意識する必要がない。僅か数日を『久しぶり』などと感じる理由がない。
だけど、リリア・ツヴァイが<肉体>を得、頻繁にエネルギーを補充し、休息を取らなければいけなくなり、疲労が蓄積する為に長時間連続して活動することもできなくなったことで、人間と同様の時間感覚を得るに至ったんだろうな。
「不便な体だな」
私がそう言うと、リリア・ツヴァイは、応えたのだった。
「だよね~。でも、私は嫌いじゃないよ、この体。不具合や不都合はたくさんあるけど、非合理的だけど、機械の体とは比べ物にならないくらいのたくさんのデータが常に入力されるんだ。備えられた<センサー>の数が圧倒的に違うからかな。人間の<五感>を構成する為のセンサーの数が。
ロボットは、人間と同じことを感じる必要がないからセンサーの数も、多くてせいぜい数百しかない。それが人間のような<苦痛>を感じない理由にもなってるんだけど、でもこの過剰なほどの<データの渦>こそが『気持ちいい』んだって感じるんだ」
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