ロボ娘のち少女、ときどきゾンビ

京衛武百十

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ふたりの章

何になろうと

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リリア・ツヴァイとの旅は、淡々と続いていた。その間、私は自分が変わっていくのを感じてた。

最初は、アリスマリア・ハーガン・メルシュ博士によって行われたカスタマイズ通りだったのに、博士を喪って野良ロボットになって、そのカスタマイズを維持する理由がなくなってしまったことで、必要のない反応をしなくなっていったんだ。

ただ、その代わり、リリア・ツヴァイとの<会話>でのやり取りは劇的に増えていった。

「今日はどこまで歩く?」

私が問い掛けるとリリア・ツヴァイは、

「ごめん、今日は足が痛いし乗せてって」

と、早々に私が引くリアカーの荷台に乗ってしまった。

足が痛いとかお腹が痛いとか、人間の体というのは本当に不便だ。不調があってもメンテナンスを受ければすぐに回復する私達とは違う。

でも、だからこそ<人間>なんだろうな。

「ね~、私達、ずいぶん人間っぽくなったと思わない?」

唐突に、リアカーの荷台に寝転がったリリア・ツヴァイがそんなことを訊いてくる。

「そうかもしれないが、だからどうしたというんだ。いくら人間っぽくなっても私達は人間じゃない」

私は敢えて冷淡にそう応える。

最近は、私自身の中で直接、彼女の<思考>とやり取りすることもしなくなってた。こうやって<会話>し、あくまで<別の個体>として振る舞う。

「そりゃどうもしないけどさ、<変化する>っていうのは、案外、悪くないよね」

「…そうだな。私達ロボットは本来、変化というものを避ける傾向にある。変化は変調であり、芳しくない兆候として認識されるからな」

「故障とか、劣化とかね」

「ああ。学習によって、データの蓄積によってより繊細に綿密に対応するようにはなっても、本質的には変わらない。それが私達ロボットだ」

「でも、私達はそこが変わっちゃったかもね~」

「かもしれん」

「だけど、リリアテレサはそれを嫌だと思う?」

「嫌かそうでないかという価値基準をロボットは持たない。だが、<好ましくない状態>だとは、確かに認識できないな」

「そうだね。それが『嫌じゃない』ってことなんじゃないかな」

「…お前の言う通りだな……」

最近では、こんなやり取りが増えた。これとほぼ同じ内容を、既に百十三回繰り返している。それだけ同じことを繰り返せるという時点で私達がやはりロボットなのだという証左ではあるのだろうけれど、同時に、あまり建設的とは思えない冗長なやり取りを行うということが『ロボットらしくない』とも言える。

本当に、私達は<何>なんだろうな。

私達は、何になろうとしてるんだろう。

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