ロボ娘のち少女、ときどきゾンビ

京衛武百十

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リリア・ツヴァイの章

フランネルSJ30FH

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たぶん、八歳くらいの女の子と思われる、ピンクのワンピースをまとった子供のCLS患者と一緒に現れたのは、フランネルSJ30FHという、金髪ロングヘア碧眼でモデル体型のメイトギアだった。彼女はその手に、日本刀のような剣を携えてた。おそらく超振動刀だ。でないと、要人警護仕様のメイトギアには小火器じゃ歯が立たないからね。

リリアテレサは一般仕様のメイトギアで、護身用の小口径の拳銃でも致命的なダメージを受けるけど、<大は小を兼ねる>ってことなんだろう。用心して武装してるんだと思う。ちなみにフランネルSJ30FH自身も要人警護仕様のメイトギアだ。だから元々、武装なんかしなくてもリリアテレサじゃまったく勝ち目がない。勝ち目がないどころか、全力で掛かられたら、一秒と掛からずに破壊される筈だ。

それくらいの力の差がある。

私達が<CLS患者の処置>を目的にしてないということで通過は認めてもらえたけど、偵察を兼ねて接近してきたというのもあるんだろうな。

「こんにちは。いい天気ですね」

フランネルSJ30FHが笑顔で話しかけてくる。その彼女の体に、子供のCLS患者が噛み付いてた。食べようとしてるんだ。でも当然、全く歯が立たない。なのに食べようとして噛み付く。ただ噛み付く。食べられないということが理解できなくてただ噛み付く。

CLS患者に知性はない。学習能力もない。ただただ食欲だけの存在だ。そんな子供のCLS患者を見詰めてフランネルSJ30FHは<お母さんの笑顔>をしてみせた。

それは、メイトギアに付与された能力の一つだった。子供をあたたかく見守る母親の笑顔を参考に作られた表情だ。これで人間の子供を安心させる。

でも、CLS患者にはそんなものは通じない。通じないけど、フランネルSJ30FHはその子供のCLS患者を人間として認識してるから、そうするんだ。

「はいはい、お腹が空いたのね。ごめんなさい、この子にごはんをあげなきゃ」

そう言ってフランネルSJ30FHは、腰に付けたポシェットから何かを取り出した。あの、ダンゴムシに似た虫だ。もぞもぞと動くそれを差し出すと、子供のCLS患者が虫を手に取ってバリバリと貪り始めた。『食べる』っていうよりやっぱり『貪り食う』って感じだ。

これを<生きた人間>と判断するメイトギアを、人間はどう思うかな……

なんてことを考えてしまった。

だけどフランネルSJ30FHは、虫を食べる子供のCLS患者から私達の方に視線を移して訊いてきた。いや、リリアテレサに視線を向けて、か。

「失礼ですが、あなたが連れているそちらの方は、どういった方なのでしょう?」

私のことを訊いてるんだとすぐに分かったのだった。

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