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リリア・ツヴァイの章

命令と指示

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メイトギアを含むロボットがいること自体は何も珍しくないけど、それが複数集まってるというのは少々事情が違う。何しろチームを組んで対応しなきゃいけないような事情がないから、それぞれは単独で<CLS患者・患畜の処置>に当たればいい訳で、それがわざわざ集まってるということは、本来の目的とは別のそれでということだ。

「コミュニティとして、接近する理由の説明を求めてきている。場合によれば防衛の為の敵対行動もありえると警告してきてるな」

リリアテレサがそんな不穏なことを言う。

だけど私達は、そういう事例について既に知っていた。

ここに<CLS患者・患畜の処置>を目的に投下されたものの、それを絶対に果たさなければいけない<命令>として与えられたのか、それともなるべくなら従った方がいい単なる<指示>として与えられたかによってもメイトギア側の捉え方が違ってて、<命令>を受けたものについては淡々それを実行するけど、それよりずっと緩い<指示>として与えられたものは、CLS患者や患畜に接触できなかったりで指示を実行できず、それを諦めて、別の目的を見付けてそっちを果たそうとするのが出てきちゃったりしたんだよね。

その<別の目的>で一番多かったのが、

『人間の下で使われてた時の環境を再現しようとする』

っていうもの。

ロボットはとにかく安定した生活を淡々と繰り返すことを良しとするっていう風に基本的には設計されるから、他にすることがなかったらそれを再現しようとするんだ。

で、人間社会を再現しようとするんだよ。

これは、前のオーナーやマスターの下での記憶がそのままにされてる機体に特に多く見られる傾向だ。初期化されてかつての記憶を失ってるロボットにはそもそも再現するべき生活がないから。

そして、かつての生活を再現しようとしてるメイトギアの傍によくいるのが、

「子供のCLS患者だな…」

私達の目的はこの道をただ通り抜けるだけだということを説明したリリアテレサが、集落に接近して人影を確認して言った。子供のCLS患者が、よろよろと道を歩いてた。そしてそのすぐ後ろには、大人、いや、メイトギアが付き添っていた。

CLS患者は、心臓が止まったことで体に十分な酸素と栄養が供給されないことが多く、その所為で一部が壊死し見た目にも『ゾンビらしく』なっちゃうんだけど、実は心臓の代わりに全身の筋肉を細かく動かすことで血液や体液をある程度は循環させ代謝を行うから、体が十分に小さいと部分的な壊死が起こらず、見た目には血色が悪いだけで、生きてる人間とそんなに変わらないっていうCLS患者も生まれちゃったりするんだよね。

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